Philips型対称ドライブ6GB3ANEPPアンプ改造  平成25年7月17日 




  1. はじめに
     このアンプは武末数馬氏著「OTLアンプの設計と製作」に掲載されていた「Philips型対称ドライブOTLアンプを少々アレンジして製作したものである。 負荷の中点を接地することにより、出力段のドライブ電圧は通常のPPアンプと同様に上下段同じとなり、打ち消し回路が不要となるのが特徴である。
     「Philips型対称ドライブOTLアンプ」はあまり馴染みのない名称であるが「サークロトロン」は同じ原理である。 今回はOPT付で製作した。

  2. 使用部品
     シャーシーのSL−8は36LW6×4SEPPOTLアンプ1号機を分解し、天板を交換して使用した。
     電源トランス、OPTは特殊なものを必要とするため、西崎電機に特注した。 CHはノグチトランスのPMC−115Hを2個、PMC−1006Hを1個シャーシー内に取り付けた。
     負荷の中点が接地されている関係で2組のB電源は出力電圧の半分が逆極性で充電されているため、電源トランス内部に余分なシールドが必要となる。 将来、17KV6A、21GY5に交換できるようにPTにヒーター電源も確保している。
     OPTは1次4分割(直列)、2次5分割(並列)のサンドイッチ構造で、オリエントコアーを使用したインピーダンス288Ω/8Ω、容量25Wのものである。
     真空管(6414、6AQ8、6463、6GB3A)はすべて手持ち品を使用した。

  3. 回路構成
     初段の6414差動で位相反転を行い、ドライブ段も準差動型SRPPである。 SRPPは上段6AQ8、下段6463で構成した。この時、上段球の対アースカソード電圧は300V前後となるため、ヒーター回路は単独、且つ非接地としなければならないので注意が必要である。
     このアンプの終段はカソードフォロアーPPで構成されているかのように見えるが、実はプレートフォロアー50%、カソードフォロアー50%の動作をしている。 しかも、上下段別々のB電源から供給され、2組のB電源はそれぞれプレートと反対側のカソードに加えられている。 その結果、各出力管プレート(カソード)電流はOPT1次側を反対方向に流れ、鉄芯の直流磁化は発生しない。
     また、OPT1次側のCTをアースしていることからCSPPのカソード側巻き線のみ使用したPPアンプの様に見えるが、これは単に負荷の中点をアースしているのみで、プレート(カソード)電流はアースに向かっては流れない。 このアンプは交流的に並列動作をしていることになる。
     OTLにするためには負荷の中点を抵抗で作る必要がある。元設計はそのような回路である。下の第4図参照。 その場合、両出力端子がアースから浮いていること、負帰還を平衡に戻す必要があり、その場合の高域アンバランス等、色々な問題を含んでいる。 この点、OPTを使用すれば、これらの諸問題が解決出来る。
     下図はOPT(MT)を使用した場合(第1図〜第3図)とOTL(第4図〜第6図)の対称ドライブNEPP、中点接地型SEPP、1端接地型SEPPの模式図である。 「OTLアンプの設計と製作」から引用。NEPP(Neutral Ended Push-Pull)は武末氏命名。





     なお、OPT1次側CT(負荷の中点)がアースされているため、出力段用2組のB電源はPT巻線を含む全体がOPT1次側出力電圧の50%で充電されている。 しかも逆相である。そのため、B巻線の上下にシールドを必要とする。
    さらに、1次側出力電圧の50%が負帰還されるため、出力管の負荷抵抗が大きい場合は帰還電圧が非常に高くなるので注意が必要である。
     288Ω負荷の場合、最大出力12Wと仮定すれば1次側K−K間には √(288Ω×12W)=58.8Vの出力電圧が発生し、その半分29.4Vが帰還電圧となる。 バイアス電圧は−30V程度であるから、合わせて 29.4×√2+30≒71.6V(ピーク値)のドライブ電圧が要求される。
     そのため前段のB電源供給電圧を450V以上とし、SRPP構成としている。この回路でピーク値100Vを超えるドライブ電圧が得られている。

  4. 測定結果
     周波数特性では700〜800KHZ付近にピークが存在するが、そこまで至る高域は非常に素直な特性が得られた。LCHの10KHZ歪率が少し良くないが概ね良好である。 OPT1次インピーダンス288Ωは6GB3A(3結)のほぼ最適負荷抵抗である。 
     矩形波応答は良好であるが、10KHZ0.47μF並列時のリンギングが少し大きい。0.1μFではほとんど変化はない。
     NFBは12.2dB、残留雑音は左右とも0.1mV未満、DFは14.7(ON−OFF法)であった。CHを使用した効果で、残留雑音レベルはかなり良好である。
     SRPP下段6AQ8カソードに挿入している200Ω半固定抵抗はACバランス調整用で、これにより歪率を一挙に1/4まで下げることが出来た。

  5. 最大出力
     最大出力は入力1.26Vでクリップ開始出力12W/8Ωが得られた。最大出力を超えるとクロスオーバー歪が発生することが少し気になる程度である。

  6. その他
     シャーシー上面には空スペースが多いように見えるが、内部にはチョークコイル3個が内蔵されているので、かなり込み合っている。 今回のアンプに使用した電源トランス、OPTは特注するか自分で巻かなければならないが、OPTは1次インピーダンスが低い関係か高域特性が良好である。 特注しても、締めて32,000円程度であるから、市販品と比較してかなり廉価である。

     このアンプは6月末に完成していたのであるが、入力感度が少し高すぎたので、初段をμ=40の6414に改造した。 内部抵抗が低いこと、さらにプレート負荷抵抗を51KΩに変更した効果で高域遮断周波数が少し高い方へ移動している。
     また、裸利得が減少したのでNFB抵抗を1KΩに変更した。最大出力が減少した原因は測定時のAC電源電圧が影響していると思われる。



内  部  配  線


背  面  写  真

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