50CA10×4SEPPアンプのメンテナンス   平成27年4月20日 


 上部カバーを外した50CA10×4SEPPアンプ

《 はじめに 》

 先日、滋賀県のK氏から珍しいSEPPOTLアンプのメンテナンス依頼があった。 現在はプレミアがついて非常に高価になった50CA10を片CHに4本使用した、非常に贅沢なアンプである。 40年ほど前に雑誌の製作記事を参考にして自作されたものだそうである。
 以前、50CA10によるOTLアンプを検討したことがあったが、2本パラにしても5W程度の最大出力しか得られず、諦めたことがあった。
 1次100Ω以上のマッチングトランスを使用すれば低歪、大出力アンプとして使用できる可能性があるのでメンテナンスと同時にテストを試みた。

《 50CA10マッチング 》

 回路図を見たところ、バイアス回路が2本単位での調整となっていたので、まず最初に、送られてきた50CA10(16本)のマッチングを組むことから開始した。
 右表がその結果であるが、元はすべてペアーチューブであったと思われるので、6080などのレギュレーター管と違って、うまくペアーマッチングを組むことが出来た。


《 メンテナンス作業 》

 ペアーマッチングのとれた球を差してプレート電流の調整から開始したが、このアンプはロータリーSWで各球のプレート電流が測定できる回路が組んであったので非常に便利である。
 プレート電流は1本当たり40mAに調整した。出力段のB電源が左右共通となっているため、DCバランスはなかなか面倒であった。 しかし、ペアーマッチングが取れている球を組み合わせたにも係わらず、各球の測定値に少し大きな開きが見られた。 プレート電流測定用の抵抗が各プレートに挿入されているのであるが、経年変化で抵抗値が変化している可能性がある。 そこで、8本の2.2Ω抵抗をチェックしたところ、経年変化と思われる10%以上の誤差を生じているものが見つかった。 2.2Ωの手持ちがなかったので、すべて3Ω2Wに交換することにした。
 次に増幅率のチェックをしたところ、左右で大幅に違っていた。さらに、左CHでは不規則な雑音が発生していた。初段各部の電圧を測定したところ、左CHの方がすべて高い状態であった。 抵抗値を測定したところ、左CHのカソード抵抗2.2KΩ+220Ωの内220Ωが400Ω程度に増加していた。
 また、初段のプレート電圧が160V程度と高く、ドライバー段のカソード電圧が180V程度となっていた。 規格内ではあるが、安全のためにはもう少し下げたい。 そこで2.2KΩ+220Ωを1KΩ+300Ωに交換し、ドライバー段のカソード抵抗を27KΩ3Wから22KΩ5Wに交換した。 それにより初段プレート電圧は105V程度に、ドライバー段カソード電圧は120V程度になった。
 出力段の±B電源電圧が高いこと、さらにドライバー段のB電源電圧も500V近くあるため、下段のカップリングコンデンサー0.22μF630Vが耐圧オーバーしていた。今まで絶縁破壊を起こさなかったことが不思議である。 そこで0.22μF630Vを0.1μF1200Vのパラに交換した。
 NFB量を測定したところ30dB程度掛っていたので、負帰還抵抗を2.2KΩから3.3KΩに交換した。それでもNFBは27dBであった。 このアンプはCHコイルが使用されてなく、リップル打ち消し回路が組まれている。そのため、NFB27dBでも1mV程度の残留雑音となっていた。 ちなみに、NFB量を20dBに減じた場合は残留雑音が3mV程度に増加した。
 8Ω負荷で7W、16Ω負荷で13W程度の最大出力が得られたが、歪はかなり多い。しかしながら、周波数特性は流石OTLと思える高域特性を示している。 NFB量が多いため容量負荷時のリンギングは大きいようである。



 50CA10×4SEPPアンプ


 50CA10×4SEPPアンプ後面

《 マッチングトランス接続 》

 手元にあった、TOA製の業務用マッチングトランス OT−463−GL(80W)と、新たにオークションで入手した パナソニック製 W2−ST60(60W)を使って見ることとした。
 マッチングトランスを接続した場合は1次側電圧がかなり高くなるため、NFB量は38dB近くになっていた。そこで、NFB抵抗の3.3KΩ直列に15KΩを挿入し、SWで切り替えることにした。 それでも、NFB量は28.5〜29dB程度となっている。
 この2組のマッチングトランスは高域がなだらかに減衰して、高域安定性は優秀である。最大出力も30W程度まで増加した。 なお、負荷解放時のDCバランス保護用として挿入されている1KΩ10W抵抗は最大出力時にはかなり発熱するので、最低でも10Wが必要である。最大出力測定時等には気をつけねばならない。
 下の写真は木製ケースに入れた2組のマッチングトランスである。



木製ケースに収めたパナソニック製 W2−ST60(60W)とTOA製OT−463−GL(80W)


背 面
どちらも業務用で規格は下記の通り。

 《 パナソニック製マッチングトランス W2−ST60 》
    定格インピーダンス  1次:70系 84Ω、100系 167Ω
               2次:4 Ω、8 Ω、16 Ω
    定格容量       60W

 《 TOA製マッチングトランス OT−463−GL 》
    定格インピーダンス 1次:63Ω/125Ω
              2次:8Ω
    定格容量      80W

 低域特性はTOA製が優れ、超高域を除く高域特性はほぼ同等である。 低域の差はコアーサイズが影響して磁気飽和を起こしていることが原因である。 TOA製は20HZまで30Wの出力を維持できているが、パナソニック製は20HZの最大出力が中域の60%まで低下している。
 しかしながら、どちらも業務用であるため、高域特性は非常に安定している。容量負荷時の10KHZ矩形波応答は低帰還アンプの様相を示している。
 ダンピングファクターは8Ω負荷時は16、マッチングトランス使用時は7程度である。 これはマッチングトランス1次側からNFBを戻しているため、マッチングトランスの巻き線抵抗値(約0.5Ω)が出力インピーダンスに加算されるためである。

 回路図と測定データは別ページをご参照されたい。
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