6336SEPPOTLアンプのメンテナンス   平成18年8月7日 


6336ASEPPOTLアンプ

《 はじめに 》

 6336ASEPPOTLアンプといえば、私がSEPPOTLアンプに没頭するきっかけとなったものであるが、6336Aすら手にした経験がなかった。 先日、6336ASEPPOTLアンプメンテナンスの依頼が飛び込んできたので、喜んで引き受けることにした。 以下はそのレポートである。
 手元に届くまでは、もしやラックスMQ―36ではないかと思っていたが、実物を見ると、トランス類はラックス製ではあるが、部品の配置がMQ―36とは異なっていた。 しかも銘板は付いてなく、MQ―36ではなかった。キット製品かもしれないが、いずれにしても回路図がなくては手が出せない。 まずは回路図の作成作業からはじめることにした。第1図がその原回路図である。

《 このアンプの特徴 》
  1. SEPPOTLアンプに必須の打ち消し回路が初段6072の差動型位相反転回路で行われている。 しかも単純かさ上げ方式である。一般に差動型位相反転回路ではカソード帰路がマイナス電源に接続されるが、このアンプでは1.1KΩでアースされている。 つまり初段の6072を不平衡動作をさせて目的を果たしている。しかも、NFBの効果も利用しているため、NFBを増加すればバランスが崩れ、歪率が悪化する。 したがって、SPインピーダンスが変動すればNFBが変化し、完璧な打ち消し動作は期待できない。

  2. プラスマイナス電源に使用されている電解コンデンサーの容量が470μFと小さい設定であるため、出力段の時定数が小さく、20HZでの最大出力が中域と比べて少し低下すると思われる。 16Ωスピーカーであればあまり問題ではないが、8Ωでは少し影響が出る可能性がある。 その当時は大容量の電解コンデンサーは高価であり、サイズも現在の数倍はあったので、スペースとコストの両面から、この容量が採用されたのではないだろうか。 現在ならば2,200μF程度のものが適当と思われる。

  3. 出力管のバイアス電圧がユニットごとに調整可能となっている。球を選別して使用すればあまり必要ではないが、このアンプのように球の劣化が少し進んで、内部ユニットのバランスが崩れている可能性がある場合は便利である。

  4. 6336は非常に熱くなるが、その放熱に対してあまり考慮されていない。そのため、すぐそばにある電解コンデンサー、チョークコイルはかなりの高温に晒される。 チョークコイルは良いとしても、電解コンデンサーは問題である。今回、上の写真のようにアルミ板を取り付けたが、冷却ファンを設けた方が良いかも知れない。

  5. ヒーターカソード間の耐圧を考慮してか、ヒーター配線が全てフローティングとなっている。初段だけでもアースした方が雑音が減少するのではないだろうか。




内部配線

《 電解コンデンサーのチェック 》

 依頼主からの情報では電解コンデンサーの頭部が膨張しているので点検して欲しいとのことであったが、実物を見ると、頭部のプラスチックの部分が変形しているのみで、アルミ缶体は異常ないように思われた。
 とりあえず電解コンデンサーを全て取り外し、容量チェックとリーク電流測定を実施したが、容量もリーク電流まったく問題なかった。 しかし、頭部が膨らんだ状態では見た目も良くなく、絶縁カバーが一部破れて感電の恐れがある状態であった。 そこで膨らんだプラスチック板を取り外し、円形の絶縁カバーを接着してアルミ缶が露出しないように補修した。
 プラスチックが変形した原因は6336からの熱の影響と思われるが、電解コンデンサーと6336間に設けた熱遮蔽板により、動作中の電解コンデンサー温度上昇をかなり抑えることが出来ると思う。

《 内部のチェック 》

 次にシャーシ内部の点検を実施した。数点の抵抗が変色し過電流が流れた形跡があり、バイアス調整用のVRにも不良品が1個見つかったので交換した。 6336のプレートに挿入されている5.1Ω抵抗は、プレート電流の測定に利用するので正確なものが要求されるが、あまり正確な値ではなかったので全て交換した。 また、出力段の調整にはプラスマイナス電源中間点のテストポイントを設けた方が調整時に便利であることから、100KΩ抵抗2個を直列にしてプラスマイナス電源に接続した。(回路図参照)
 ここまで来てやっとSWを入れることが出来る状態となった。
 調整の手順は以下の通りである。なお、安全のため調整しないCHの電源ヒューズは抜いおく。

《 調整の手順 》

  1. 出力管のバイアス調整は6336を全て抜き、+C1とVR4の両端間、+C2とVR5の両端間の電圧がそれぞれマイナス50V以上であることを確認した後に実施する。 調整するCHのみ電源ヒューズを取り付け、6336を挿入する。もちろん出力端子にはダミー抵抗を接続する。 まず、内部ユニットの直流バランス調整から取り掛かる。第2図の位置に電圧計を接続し、VR4(VR5)を調整して指示値を0Vに合わせる。 次にヒューズを反対側に差し替えて同様に調整する。

  2. 次は第3図の位置に電圧計(V1、V2)を接続し、V1の指示値を0.46Vに維持しながらVR6とVR7を交互に調整してV2の指示値を0Vに合わせる。 V1は6336のプレート電流監視用であり、0.46Vで約90mAである。(5.1Ω×0.09A=0.459V)この作業は2箇所の電圧を確認しながら行うため、1台のテスターのみでは難しい面がある。

  3. 再度1と2の調整を繰り返して出力段のバイアス調整は終了である。

  4. 続いて前段の直流バランス調整に移るが、ここからは雑音歪率計があった方が確実である。 第4図の位置に電圧計を接続し、VR2を調整して指示値を1V以下の位置に合わせる。

  5. 次に、歪率を測定しながら(1KHZ1W)VR3を調整し歪率が最も低くなる位置に合わせる。

  6. 再度4と5の調整を繰り返せば終了である。

《 回路定数の変更と「まとめ」 》

 以上の調整は、少なくとも電源を入れてから最低でも20分以上経過し、温度が安定してから行わなければならない。
 上の4と5の調整中、VR3を一杯に回さなければならない状態が発生した。しかも最低歪率が1%(1W時)以下に下がらない。  初段6072のカソード抵抗を少し大きくすると歪率が下がることが判明したので1.1KΩ抵抗を2.2KΩに変更したところ、1W時の歪率は劇的(0.25%)に下がった。 しかし、最大出力は10Wに届かない。打ち消し動作のバランスが崩れた状態と思われる。
 そこで6072のカソード抵抗を1.4KΩに、次段12AU7の下側プレート抵抗を33KΩから43KΩに変更した。 再度調整した結果、歪率は0.5%以下に減少し、最大出力が16Wまで増加した。歪みは正弦波の片側が少し丸くなる形であるから、主に偶数次の歪が発生していると思われる。
 NFBは10dB、入力1.2Vで最大出力16Wが得られた。残留雑音が約2mVと少し大きいが、耳をスピーカーから10cmまで近づけて聞こえる程度である。 ヒーターがフローティングの影響ではないかと考えて、V1とV2のヒーター巻き線センタータップをアース接続したが、残留雑音に変化は見られなかった。


 最大出力16Wは、8Ω負荷であること、球が劣化していることを考慮すれば、まずまずの結果が得られたと思っている。 以下に最終の回路図と測定結果を示す。歪は少し多いが、歪率のカーブは各周波数で良く一致している。 また、周波数特性も高域まで良く伸びている。
 回路図に記入してある電圧はあくまでも目安であり、電源電圧に影響を受けて変動するので参考程度に。 また、赤色の配線は追加した配線と部品を表している。


矩形波応答 RCH 8Ω1W
100HZ
1KHZ
10KHZ
10KHZ 0.1μF
10KHZ 0.47μF

矩形波応答 LCH 8Ω1W
100HZ 8Ω
1KHZ
10KHZ
10KHZ 0.1μF
10KHZ 0.47μF

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