ブラインドテスト無用論   平成17年6月20日 

 私のような一介のマニアがブラインドテストについて論ずることには、些か抵抗感があるが、単なる、個人的意見と読み流していただきたい。
 過去に幾度も掲示板等でブラインドテストの有用性について議論が交わされてきた経緯があるが、いずれの場合も結論に達していないと感じている。 私はユーザーが行うブラインドテストそのものが必要かどうか疑問に思っている。 テスト条件の設定が非常に困難であること、また、その評価が曖昧にならざるを得ないほど微妙な変化しか生じないためである。 また、はっきりと判別できる場合、テストを実施した機器以外に原因があると思われる。 またそのテスト方法が間違っていることもあるであろう。
 私が実施したマイクロフォンを使った測定実験では、ほんの数cmの移動で周波数特性は大きく変化するが、人間の耳(脳)はその変化をほんの僅かしか感じることが出来ない。 ましてや、測定データ上になんら変化を生じていないにもかかわらず音が変化したとする理由はどこにあるのであろうか。 測定データ上には現れない何かが在ると主張する方も多いが、私には、単なる先入感、思い込み、接続不良、その他何らかの環境変化(聴取位置の変化、人の移動等)が原因としか考えらない。 次にそれぞれの機器、アクセサリー等についてのブラインドテスト無用性を検討する。

  1. アンプ
     アンプのカタログに掲載されている各種データには、最大出力、出力インピーダンス、周波数特性、歪率等が記載されているが、最大出力に差がある程度で、他のデータは似たようなものである。
     「アンプの物理特性が同等であればスピーカーから発せられる再生音も同等である。しかし、人の耳(脳)へ到達する音は同等ではない場合がある。」 つまり、音の違いは途中の空間で発生している可能性が高い。あるいはまったく変化していないにもかかわらず、人の脳が変化を錯覚しているのかも知れない。
     もちろん、最大出力が3Wのアンプと300Wのアンプを聞き比べれば違いが判って当然であるが、同じ条件(小出力のアンプに合わせ、小音量で再生)であればほとんど差が生じないと思う。
     また、出力インピーダンス(DF)が大きく異なっている場合は、再生周波数特性上に差が観測され、再生音(主に低音)に差が生じることが考えられる。 出力インピーダンス(DF)をコントロールする方法を考えれば良いことである。 本来アンプは無色透明でなくてはならないものであり、再生音に対する色づけなどは決して有ってはならないことである。
     したがって、アンプのブラインドテストは、良品か不良品を見分ける程度しか効果はないと思う。カタログ通りの性能が発揮されているかの判定をしていることとたいして変わらない。

     私はこれまで多くの真空管アンプを自作してきたが、測定データ上の違いはあっても、再生音に違いを感じたことはほとんどなく、異常動作をしていない限り、ほとんど聞き分けることが出来なかった。 しかし、低音用アンプをEL−34PPアンプから36LW6×6SEPPOTLアンプに変更した場合のみ、はっきりと違いを感じることが出来た。 別に音が良くなったとかではなく、VRを上げすぎて、それまで使用していたウーハーの耐入力を超えてしまっただけである。 それだけOTLアンプの低音再生能力が大きいと言うことである。そのためウーハーの交換を余儀なくされてしまった。

  2. ピンケーブル
     ピンケーブルを交換する事により何が変化するのであろうか。 ピンケーブルによる特性の差は、ケーブル自体の分布容量による高域の変化が考えられるが、その差はMHZ帯で発生する程度であり、可聴周波数帯に影響を及ぼすような差は考えられない。 直流抵抗値についても0.2Ω以下と無視できる値である。
     ただし、出力側のインピーダンスが極端に高い場合、高域の減衰が発生するが、一般のCDP、あるいはプリアンプ等の出力インピーダンスは低値であり、その影響は問題にならないであろう。
     したがって、ピンケーブルのテストでは、耳でわかるような変化が起きるとは考えられない。もし違いがあれば、それはケーブルの特性ではなく、何かほかの原因と思われる。 それを解明することが先決である。

  3. スピーカーケーブル
     スピーカーケーブルを変えた場合の一番大きな違いは直流抵抗である。 直流抵抗が大きい場合、その値が出力インピーダンスに加算され、SP側から見たアンプの出力インピーダンスをSPケーブルの直流抵抗値以下にすることは不可能である。 しかも、出力インピーダンスの低いアンプほどその影響は大きい。 したがって太さ(芯線サイズ)の違うSPケーブルに交換した場合、音が変化することはあり得ることであるが、その原因は材質、形状、銘柄等ではなく、ただ単に直流抵抗値の差が影響しているのみである。
     スピーカーケーブルのブラインドテストは違いが出る可能性が高いが、太さが同じ(直流抵抗値が同じ)であれば、違いを聞き分けることはほぼ不可能と思われる。 したがって、この場合のブラインドテストも、ただ単に、SPケーブルの直流抵抗値を比較していることと同じである。

  4. 電源関係のアクセサリー
     電源関係のアクセサリー類についても、不良品(欠陥品)でない限り、影響が出る可能性は非常に低いと思われる。アンプの内部ではほとんど直流に変換され、一部を除いて交流は存在しない。 交流から直流への変換がほぼ完全に近い状態で行われていれば、AC電源の影響はないはずである。 問題となる要素は、電圧変動のみと考えられる。これも電源の大容量化(トランス容量、電解コンデンサー容量)、あるいは直流電源安定化対策等を行えば、影響を最小限に抑えることが可能と思われる。
     しかも、電圧変動に影響を及ぼす要因は、コンセント以降ではなく、その前の部分にある。つまり発電所〜コンセント間である。 特に屋内配線による電圧降下がその大部分を占めている。 したがって、電源アクセサリーを交換して音が変わったとの主張は否定しないが、その原因はその材質、構造、銘柄等ではないと考えられる。即ち、一般の新品に交換した場合も同じ現象が起きたのではないかと推測する。
     ブラインドテストなどよりは、電源周りの部品が良品か不良品かを見極める事の方が大切である。

  5. スピーカーシステム
     スピーカーシステムについては自分で試聴すればある程度の判断は可能であるから、ブラインドテストは必要ではなく、単に試聴すればよい。 また、音質以外の性能については、カタログデータ上である程度の予測が可能である。
     問題はリスニングルームにおけるスピーカーのセッティングである。定在波、フラッターエコー、スピーカーの配置、聴取位置、部屋の内装仕上げ、家具の配置等、再生音に大きく影響することばかりである。 以上の諸問題を改善するためには、ブラインドテストなど必要なく、自分で試聴、あるいは測定して検討するしか方法はない。
     それにしても最近のスピーカーシステムは高価格であり、低能率である。しかもサブウーハーを併用しなければ重低音再生はおぼつかない。

  6. 真空管
     真空管のメーカーが違えば音が変わるとの意見があるが、私としては、それは単なる球特性のばらつきであると思う。 同じメーカーの同じ品種の球であっても、測定してみれば大きな差がある。 したがって、単に挿し変えただけでは動作条件が異なり、歪率等が変化する場合があり、その違いが聞き分ける事が可能な場合もあるであろう。 しかし、球を交換した後、再調整を行えば、NFBアンプではその差はほとんど現れないと思う。ただ、無帰還型のアンプの場合影響が残るかもしれない。 いずれにしても単純に比較する事は出来ない。これまた、良品か不良品かを見極めるだけのテストとなってしまう。 なお、半導体のことは良くわからないのでコメントは控える。

  7. まとめ
     本来、ブラインドテストは製造者が自ら実施して、ユーザーに対して機種選択のための判断基準を示すことに意味があると思う。 ユーザーは高価なオーディオ機器を購入するわけであるから、選択の基準となるデータを求めている。 しかし、メーカーはブラインドテストの結果を一切公表していない。実際にテストを実施しているのであろうか。 たとえ実施していても公表できないであろう。 したがって、現状のカタログデータではほとんど判断材料とはならない。単に売上を伸ばすための誇大広告としか私の目には映らない。 特に、ケーブル類のデータはほとんど公開されていない。 そのため、販売店の推薦、自分の耳、あるいは他人の評価等を基にして購入せざるを得ない。まさに「清水の舞台から飛び降りる」の心境である。 そうして、無駄な出費(私にとっては)を重ねているマニアが如何に多いか。 まるで無駄な出費を楽しんでいるかのようである。巷で言われている様な違いは存在しないと私は思っている。
     極論すれば、ケーブルは電気がスムーズに流れればよい、形状、材質等は二の次である。機器についてはスタイル、附属機能、必要とする最大出力(メインアンプ)で選択すれば十分である。 そして、余剰資金はスピーカーに投入すべきである。
     現在,巷には確たる証拠もない、主観的意見、風評があふれているとしか思えない。それに惑わされて右往左往するオーディオマニアの姿を一歩下がって、周りから見れば非常に見苦しい姿ではないだろうか。 ついにダイアモンドが使用される時代になってしまった。
     我が家の再生音は、とても他人にお聞かせできる代物ではないかもしれないが、私はほぼ満足している。 また、クラフト趣味も十分に堪能している。「趣味としての自作オーディオ」はこれが本来の姿と思っているし、今後もこのスタイルを変える気はない。
     以上の「ブラインドテスト無用論」に異を唱える方は多いと想像するが、あくまでも私個人の考えであるので、ご容赦いただきたい。

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