ガラス管ヒューズの功罪  平成16年9月25日 

 ほとんどのオーディオ機器にはガラス管ヒューズが内臓されているが、その使用目的は、機器故障時の保護、過負荷からの保護等である。 しかし、その効果はいかほどであろうか。かえって悪影響を与えかねない。そこで、その功罪について考えてみることにする。
 ガラス管ヒューズには幾つかの規格があるが、一般には長さ30mmのヒューズが使用されている。 その規格について、下表に簡単にまとめてみた。




 上記の通り、ガラス管ヒューズにはA種、B種がある。他にも速断型、スローブロー型等、溶断特性の異なったものも製造されているが、これらは、ほぼA種ヒューズに含まれるものと考えられる。 一般には普通溶断型A種ヒューズが使用されている場合が多い。しかし、その溶断特性から考えて短絡保護、あるいは機器故障時の保護目的等でなければ機能しない。 つまり、少々の過電流では溶断までの時間が長く、機器の過負荷に対しては十分な効果は期待出来ないと思われる。 速断型であればある程度の効果は期待できるかもしれないが。
 一般にヒューズメーカーは定格電流値の2倍の電流容量を採用することを推奨しているが、その場合、機器が故障して機器定格の3倍近い過電流が流れたとしても、ヒューズの定格電流に対しては150%に達していない。 これでは溶断するまでに60分近くかかることになる。そのまま放置していたとき、機器は大丈夫であろうか。 修理不能状態まで故障が進行してしまうのではないだろうか。
 一般的にダイオードが短絡破壊すればヒューズが溶断して保護されるが、トランスの巻線抵抗値が大きい場合はヒューズがただちに溶断するだけの電流値に達しない場合もある。 これではヒューズが動作するまでの間にトランスが発熱し、絶縁不良あるいは絶縁破壊を起こしてしまうので安心できない。 しかし、ぎりぎりの電流容量では電源投入時の突入電流で切れてしまう場合がある。 特に平滑用電解コンデンサーが大容量である場合は注意が必要である。
 以上は建前論であり、一般的には少し大きめのヒューズ容量を採用し、異常を発見したならば直ちに電源を遮断できる体制にしておけば十分と考える。

 次に見落とされていることは、ヒューズ自体の抵抗値、及びその接触抵抗である。下表に、ヒューズ容量別の抵抗値(接触抵抗値を含む)、及び電源コードの抵抗値を示す。



 小容量では速断型の方が抵抗値が低く、5A以上ではスローブロー型の方が少し低くなっているが、電源のインピーダンスを考えた場合、無視できない値である。 電源コードの抵抗値と比較して、いかに大きい値か分かる。3Aヒューズが1.25のビニールコード2mに匹敵する抵抗値である。 これだけの抵抗値であれば、電源コードのサイズアップ、コンセントの接触抵抗を云々する以前の問題である。
 ヒューズの定格電流を大きくすればヒューズ自体の抵抗値は小さくなるが、必要以上に大きくすれば、過電流に対する保護作用が低下し、その存在価値がなくなってしまう。 ヒューズ容量の決定には注意が必要である。 なお、サーキットブレーカーの内部抵抗値もヒューズとほぼ同等か少し大きい程度である。 (3〜5Aの製品で0.0595〜0.0325Ω) ヒューズとブレーカーを比較した場合、ブレーカーの方が突入電流に対しては遮断しない、過負荷電流には鋭敏に遮断する特性の製品が製造されているようである。 しかし、少々高価である。
 ヒューズあるいはブレーカーにしても、電源電流のエネルギーを利用して遮断するわけであるから、インピーダンスを0とすることは出来ない。 出来るだけ抵抗値が低く、低温度で溶断するヒューズ、あるいは出来るだけ小さいエネルギーで動作するブレーカー等が求められる。
 ここまで、ヒューズを悪者扱いしてきたが、電源トランスの巻線抵抗値を忘れてはならない。中型のトランスでは10〜50Ω、小型トランスではもっと大きな値となる。(2次側換算抵抗値を含む)
 以上の結果から、レギュレーションに最も影響する因子は大きい方から、次のような順序となる。

  (1) 電源トランスの巻線抵抗値(10〜50Ω)
  (2) コンセント以前のインピーダンス(0.2〜0.5Ω)
  (3) ヒューズの抵抗値(0.026〜0.054Ω)
  (4) 電源コードの抵抗値(0.021〜0.055Ω)

 なお、電源コードが細い場合、あるいはヒューズの容量が大きい場合は、ヒューズと電源コードの順序が逆転する場合もある。 いずれにしても、電源コード、コンセントとヒューズがレギュレーションに及ぼす影響は、ほぼ同程度と考えらる。
 電源トランスの巻線抵抗値の大きさから考えて、電源のインピーダンス、コード、ヒューズの抵抗等は微々たる値であり、無視してもかまわないと思える。 電力源としてとして使用される電源トランスには十分な容量を確保すべきであり、ぎりぎりの容量では発熱量(電力損失)が大きくなり、色々と悪影響を及ぼす可能性が高いと考えられる。 また、電源の平滑用電解コンデンサーの大容量化も測定データ上にはほとんど現れないが、実動作上のレギュレーション改善効果は大きいと思う。 しかし電源部の大容量化は、既製品ではほとんど不可能であり、自作の場合でもコストの増大につながり、思うようにならない。

 最初の命題と少し違った結論になってしまったが、要は、エネルギーを商用電源から効率よくアンプに供給してやることが大切であり、その対策として、自作アンプであれば電源の強化(電源トランス、平滑用電解コンデンサー容量アップ等)を実施する。 それが無理であれば、電源トランス1次側から電力会社引込み線までの配線材(ヒューズ、コード、コンセント等を含む)の容量(サイズ)アップが必要と思う。 しかし、電源の容量アップ以外は、電源強化対策としては効果が薄いのではないだろうか。
 所謂、雑音除去のための絶縁トランスなどは、特に電流変動の大きい真空管OTLアンプにとっては、よほどの大容量の絶縁トランスでない限り、レギュレーション悪化原因以外の何者でもないと考える。


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