ラックスマンMQ−36のメンテナンス   平成26年6月8日 


 ボンネットを外したラックスマンMQ−36


《 はじめに 》

 先日、秋田県のT氏からラックスMQ-36のメンテナンスの打診があった。 T氏の使用スピーカーのインピーダンスは6Ωとのこと、16Ω以上のスピーカーを使用することを前提として設計されたMQ−36では6Ωスピーカーは非常に過酷な条件である。 歪率も悪化し、最大出力は15Wが得られるかどうかである。
 マッチングトランスを使用すれば低歪、大出力アンプとして使用できるのであるが、現在、製造しているメーカーはない。 特注も視野に入れていたところ、オークションにタンゴFU−60−16が出品されているのを見つけ、落札することができた。 下の写真は木製ケースに入れたFU−60−16である。
木製ケース入りマッチングトランスFU-60-16
マッチングトランスFU-60-16

《 6336Aマッチング 》

 依頼主から6336A(RCA)が12本送られてきたので、自作バルブチェッカーで測定し、ペアーマッチングを組むことにした。 下表はその測定結果であるが、これだけの本数が揃っていても、劣化しているものや不良品などでペアーマッチングは4組程度が限度である。
 将来的には6336Bに交換することも考えておく必要がありそうである。 幸いにして、前回のメンテナンスでバイアス電圧を深く出来るように定数変更がおこなわれていた。 しかし、その影響で50V220μFの半数に常時50Vを超える電圧が掛る状態となっていた。



《 交換部品 》

 コンデンサー類のすべて、さらに6336Aのプレートとカソードに挿入されている4Ω3Wと15Ω5Wを交換してほしいとの依頼であった。
 使用されている電解コンデンサーはφ50mm、φ40mm、φ35mmの3種類である。 しかし、容量がマッチした製品はすべてφ35mmであり、とそのままでは取り付け不可能である。 そこでφ50mmの穴にはアルミ板1.5mmを加工してアダプターを製作して取り付けた。 φ40mmの穴はφ35mmの取り付け金具を加工(変形)して取り付けた。
 下表は交換した部品のリストである。



《 調整および改造箇所 》

 上記部品を交換の後、電源を入れ出力段のDCバランスを調整し、6336Aユニット当たりのプレート電流を96mAに設定した。 この状態で6267のプレート電圧を測定したところ87Vと95V程度であった。 その時、6CL6のプレート電圧は360〜375V程度を示し、6CL6プレート負荷抵抗(5KΩ)の両端電圧は70V未満となっている個所もあった。
 この状態では低域のドライブ電圧が十分確保できない。つまり、段間の時定数が0.047μF×220KΩでは低域遮断周波数は15.4HZとなる。 その結果、中域は50V程度のドライブ電圧であるが、15HZ付近では70V程度を必要とし、最低域のクリッピングパワーの低下を招いていた。
 それを回避するためには、6267のプレート電圧を上げるか、6CL6共通カソード抵抗を小さくして6CL6のプレート電流を増加してやる必要がある。 プレート抵抗を5KΩから8.2KΩ程度に変更した方が良いかも知れないが、その場合は共通カソード抵抗、スクリーン抵抗(20KΩ)も変更しなければならない。
 今回は6267のプレート電圧を高くする方法をとることにしたが、そのためにはデカップリング抵抗(39KΩ)をかなり小さくしなければならない。 球によっては調整出来ない場合も生じる。
 そこで6267のSG電圧を下げて対応することにした。原器では510KΩに2MΩのブリーダーとなっていたが、2MΩに1MΩをパラにし、SG電圧を100V前後まで下げた。 その場合、SGパスコンが0.1μFでは小さいようなので0.47μFに交換した。
 その状態でデカップリング抵抗は68KΩと84KΩに決定した。 最適プレート電圧は100V〜105V付近と思われるが、あまり高くすると(110V以上)6CL6のプレート電流が増加し、B電源容量をオーバーするので注意が必要である。 改造後は47.5mA程度流れているので少し定格オーバー(105%)の状態である。調整範囲は意外と限られ、微妙である。

《 最大出力、測定結果 》

 8Ω負荷の最大出力は18W、16Ω負荷では27W、32Ω(MT使用)では36Wの最大出力が得られた。 周波数特性は抵抗負荷(16Ω)、マッチングトランス使用時(32Ω)と比較してもほとんど変化は見られない。
 マッチングトランス使用時(32Ω)は低域のクリッピングレベルが低下し、20HZで抵抗負荷(16Ω)とクロスしているが、マッチングトランス低域特性の影響と思われる。
 歪率は32Ω負荷時が最良であり、16Ω、8Ωと下げるに従って悪化している。最低歪率の0.007%は自作歪率計の測定限界値である。
 10KHZの歪率が少し悪い原因は初段のプレートに挿入した位相補償回路の影響と、上下段の高域不平衡が原因と思われる。 下段6CL6のプレートに小容量コンデンサーを挿入すれば少し改善される可能性はあるが、今回は十分低歪と思われるので対処していない。

《 その他 》

 このアンプは負荷抵抗が大きくなるに従いNFBも増加する。 16Ω負荷時のNFBはおよそ27dBとかなりの高帰還アンプである。 しかし、マッチングトランス使用時の安定性にも問題はなく、容量負荷時の矩形波応答は抵抗負荷時とほとんど変化は見られない。 ただ、100HZではサグが大きくなっているのが見てとれる。 好みによってはNFBを低減した方が良いかも知れない。
 このアンプは非常に熱くなるので、冷却ファンを取り付けた方が長期間安定動作させることが出来るのでないだろうか。 また、出力管のDCバランス、バイアス調整が裏蓋を取り外すことなく出来る構造は見習わなければならない。



ボンネットカバー


部品交換後の内部配線



背  面(出力端子を交換)

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