真空管の最大定格   平成17年10月18日    



東芝電子管ハンドブック(昭和37年発行)


 国内で真空管が製造されなくなって久しく、日本製真空管は入手が難しくなってきた昨今であるが、中国、東欧辺りでは製造されているので、入手は容易である。 しかし、かつての日本製真空管と比較して、規格から外れたもの、マイクロフォニック雑音の多いもの等、品質は悪化していると感じている。
 一般に真空管の規格は「真空管ハンドブック」に記されているが、最近ではWEBで検索した方が早い。 しかも、ほとんどの真空管が網羅されているので大変便利である。上の写真は昭和37年発行の「東芝電子管ハンドブック」第1版であるが、その後に開発製造されたものは掲載されていないため、最近では出番が少なくなった。

 真空管アンプ自作マニアとして、もう一度原点に返って真空管の定格について考えてみることにする。 東芝真空管ハンドブックによれば、真空管の最大定格について、次の様に記載されている。

 以下、東芝真空管ハンドブックからの引用(青字部分)。

【最大定格の意義】
 電子機器が安定な動作を得るためには、使用する部品の一つである真空管について使用上種々の制限が必要となります。 すなわち、バルブ温度、カソード電流、電極電圧等能力を無視したきびしい条件で設計された機器では満足な動作、寿命中の安定な動作を期待することは出来ません。 したがって真空管の能力、使用条件の限界を示したのが最大定格であります。

【最大定格方式】
 最大定格方式は最大定格を設定し、それらの解釈をきめるのに必要な諸原則を総称したもので、設定の時期あるいはその趣旨により次の3つがあります。 すなわち、最も古くから使用されている絶対最大定格方式、続いて使用された設計中心定格方式、最近になって採用された設計最大定格方式であります。
 これらの最大定格方式は各々特長をもち、電子管製造者と機器設計者との間の責任の割り振りが示されております。 最近は設計最大定格方式が採用されつつあり、3方式が混在しておりますので、本ハンドブックでは個々にこの定格方式を明示してあります。
  1. 絶対最大定格
     絶対最大定格は、すべての電子管に適用される動作条件、環境条件の限界を示すもので、いかなる条件で使用しても越えてはならない値を示しております。 この定格値以内で使用される場合は十分満足な能力を発揮することが保証されますが、この値を越えて使用した場合に起るいろいろな問題については、機器設計者の責任となります。
     したがって、機器設計者は電源電圧の変動、真空管の特性のバラツキ、回路部品の値のバラツキ、負荷の変動、信号の変化、周囲条件の変動等すべての起りうる最悪の条件を考えて設計せねばなりません。 この点では機器の設計者には極めて不便な定格であるように思われます。

  2. 設計中心定格
     設計中心定格は標準球について適用される動作条件、および周囲条件についての制限値で、標準の状態において越してはならない値であります。
     したがって、機器が平均的な動作条件で標準球についてこの定格値以内に設計されていれば、電源電圧の変動(通常±10%)、真空管の特性のバラツキ、回路部品の値のバラツキ、負荷の変動、信号の変化、周囲条件の変動等に起因する問題は真空管製造者の責任となります。
     この定格は機器設計者には便利なものでありますが真空管製造者には過酷な定格であります。

  3. 設計最大定格
     設計最大定格は設計中心定格と同様に標準球についての動作条件および周囲条件についての制限値でありますが、真空管以外で考え得る最悪の状態においてもこれを越してはならないものであります。
     すなわち、真空管の特性のバラツキについては真空管製造者、電源電圧の変動、回路部品の値のバラツキ、負荷の変動、信号の変化、周囲条件の変動等については機器設計者にと責任をわかちあうような定格であります。 したがって、機器の設計者は標準球について上記の種々の変動を考慮し定格を越えないように十分な検討をする必要があります。
     この定格は責任をわかちあうという点で意味があり、近時各国で採用され、我が国においても逐次この定格方式を採用する傾向にあります。

 以上のように最近の球は設計最大定格が示されているものがほとんどであるが、昭和36年以前に開発された球については、設計中心定格あるいは絶対最大定格で示されているものが存在する。 設計中心定格の場合は少し余裕があると思われるが、絶対最大定格で示されている場合は、絶対に越えない設計をしなければ、球の故障、寿命の短縮等が発生する。 また、同じ名称の球であっても、メーカーにより最大定格方式が異なっている場合があるので注意が必要である。
 たとえば、12AU7Aについて見れば、TUNG-SOLでは最大プレート電圧330Vと記載されているが、GEでは300Vと記載されている。 これだけ見ればTUNG-SOLの12AU7Aの方が高規格と取れるが、実は採用されている最大定格方式が異なっているだけのことである。 (TUNG-SOLの12AU7Aは設計最大定格、GEのそれは設計中心定格)また、同じTUNG-SOLでも12AU7については設計中心定格で表示され、最大プレート電圧は300Vである。 つまり、同じ最大定格方式で表示すれば、最大プレート電圧はすべて同じということになる。
 数値だけ見れば、一般的に 絶対最大定格>設計最大定格>設計中心定格 となっている。

 ご参考までに、真空管のデータ検索は Electron Tube Data sheets が充実していて便利である。
 また、老婆心ながら各定格の英文表記は以下の通りである。
ABSOLUTE MAXIMUM VALUES絶対最大定格
DESIGN-CENTER VALUES設計中心定格
DESIGN MAXIMUM VALUES設計最大定格


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