《 コンデンサー入力方式 》 第1図〜第5図は各種整流回路を、第6図、第7図は半波、両波整流回路各部の電圧、電流をあらわしたものである。 Ep: 交流入力電圧(実効値) eb :交流入力電圧(瞬時値) Eo :直流出力電圧 ib、ib1、ib2 :リップル電流の瞬時値 ibmax :リップル電流ibの最大値 Ibo :リップル電流ibの実効値 Io :負荷電流 下の写真はコンデンサー入力における同じ出力電流時のリップル電流である。左は半波整流時の ib 、右は両波(全波)整流時の ib1、ib2 を表している。 |
(1)半波整流
半波整流は交流の半サイクルのみを利用する方法であるが、 eb (交流入力電圧瞬時値)が Eo を超えると ib が流れはじめ、コンデンサーCが充電される。 その端子電圧が eb に等しくなった時にカットオフする。次の充電が開始されるまで負荷電流 Io が流れ、コンデンサーCの端子電圧がさがる。 そのため出力電圧は Eo の上下に電源周波数と同じ周波数で変動する。これがリップル電圧である。 この時、負荷電流 Io が増加すれば、 ib が流れる周期 τ が長くなり増加した電流を補う。 その時、 ib の実効値( Ibo )はPT巻線電流容量以下でなければならない。計算上は巻線電流容量の約45%が直流出力電流として取り出せる。 (2)両波整流 両波整流は半波整流を2つ合わせた方式であり、交流の全サイクルを利用する。したがって整流器が導通となる回数は半波整流の2倍である。 また、リップル電圧は電源の周波数の2倍の周波数となる。 このとき、各巻線に流れる電流( ib1、ib2 )の実効値( Ib0 )は半波整流と同じくトランス巻線電流容量以下でなければならない。 また、センタータップとアース間に流れる電流の実効値は √2×Ib0 ( ib1+ib2 の合成電流実効値)となる。 半波整流と同じ容量の巻線を2組使用すれば、両波整流は巻線電流容量の約90%が直流出力電流として取り出せる。 つまり、半波整流時の2倍となるが、2組の巻き線を利用するのであるから当然である。 1次側入力( VA )を半波整流時と同じに制限すれば直流出力電流値は半波整流時の √2 倍となり、下のブリッジ整流方式と同じ直流出力電流値である。 なお、半波整流時は 第1表(4)式の値( Ibo )は2倍しなければならない。 (3)ブリッジ整流 ブリッジ整流では両波整流と違って ib1、ib2 は同じ巻線を流れるので、その合成電流実効値の制約を受ける。 ib1 と ib2 の合成電流実効値 Ibk は ib1=ib2 として Ibo の2乗の2倍の平方根、つまり √2 倍となり、第1表(5)式の通りである。 したがって、ブリッジ整流では巻線電流容量のおよそ63%の直流電流が取り出せることになる。 (4)両波倍電圧整流 両波倍電圧整流ではブリッジ整流の場合と同じく ib1、ib2 は同じ巻線を流れ、その合成電流実効値の制約を受けるが、それぞれ別のコンデンサーの充電に当てられるため、最大出力電流はブリッジ整流の半分となる。 つまり、極性の異なる半波整流回路の2段重ねであり、出力電圧は Eo の2倍となる。 (5)半波倍電圧整流 半波倍電圧整流の場合もib1、ib2 は同じ巻線を流れるが、 ib1 はC1を充電するのみでダイオード(右側)がカットオフしているためC2側には流れることが出来ない。 次の半サイクルでは ib (C1の放電電流と ib2 の和)がC2を充電する。したがって、リップル電圧は電源周波数と同じになる。 また、最大出力電流はC1の容量にもよるが、両波倍電圧整流とほぼ同じであり、出力電圧はEo の2倍となる。 |
(6)θ、Io、Eo の関係 整流器が導通状態となる周期( τ )を半周期( π )で割った値( θ )は、 0.3〜0.5 で変動するが、出力電流を多く取り出そうとすれば出力電圧( Eo )が下がり( θ )は大きくなる。 θ=0.5 の時 Ep=Eo であるから、 0.5 を超えれば Ep>Eo となり過負荷状態と考えられる。 また、出力電流( Io )が少ない場合、 θ は小さくなり、出力電圧( Eo )も高くなるが最大で √2Ep である。 右の第2表に、巻線の許容電流 Ibc=1,000mA、θ=0.5 時の整流方式別最大直流出力電流値を示す。 ここでの巻線許容電流値はトランスに記載されている交流電流値を指し、DC出力電流値ではない。 また、この表のみ見れば倍電圧整流方式よりも半波整流方式の方が多くの直流出力電流が取り出せるかに見えるが、倍電圧整流方式では出力電圧が半波整流方式の2倍であるから単純比較はできない。 なお、第1表の計算式、第2表の値はリップル電流の波形が正弦半波と仮定して求めたものである。 (7)ダイオード(整流管)の最大耐逆電圧と保護抵抗について ダイオード(整流管)のカットオフ時には最大 Eo+√2Ep の逆電圧を受ける。しかし、無負荷時には Eo が √2Ep に上昇するため、最大耐逆電圧も 2√2Ep 以上を必要とする。 2√2Ep≒2.83Ep であるから、安全のためダイオード(整流管)は 3Ep 以上の尖頭耐逆電圧をもったものを使用しなければならない。 つまり、最も良く使用される尖頭耐逆電圧1000Vのダイオードは Ep が340V以下の整流にとどめる必要がある。 なお、ブリッジ整流では半分の尖頭耐逆電圧で足りる。また、5AR4、5U4GB等の整流管では尖頭耐逆電圧は1700V、1550Vとなっている。 次に保護抵抗についてであるが、ダイオード(整流管)にはサージ電流が規定されている。 SW投入直後は電解コンデンサーへかなり大きな突入電流が流れるが、一般には電源トランスの巻き線抵抗が存在するので必ずしも保護抵抗が必要ではない。 しかし、巻き線抵抗値が極端に低いトランスを使用する場合、AC100Vを直接整流する場合などは注意しなければならない。 保護抵抗 Rt はサージ電流の許容値を is 、トランス内部抵抗を Rs とすれば、次の計算式で求めることが出来る。 Rt=√2×Ep/is−Rs Rs≒1次側巻き線抵抗×巻き数比+2次側巻き線抵抗(両波整流の時は片側) なお、 Rt がマイナスとなる時は保護抵抗は不要である。 ダイオード1Aクラスの許容サージ電流は25〜30A、3Aクラスは60〜120A程度、大型整流管は4A前後である。 たとえば、電源トランス内部抵抗30ΩであるAC250Vをダイオード整流する場合のサージ電流は約12A(√2×250/30)であるから、1Aクラスが使用出来る。 しかし、トランス内部抵抗が10Ωの場合は約35Aとなるので、3Aクラスを使用するか、上記計算式で求めた保護抵抗を挿入しなければならない。この場合は5Ω以上。 また、サージ電流が大きい時はトランス1次側のピーク電流も大きくなるので、ヒューズ容量、SW容量などに注意が必要である。 一方、整流管の内部抵抗は75〜150Ω前後であるから、ほとんどの場合は保護抵抗を必要としないが、コンデンサーインプット時におけるコンデンサー容量に制限値が設けられている。 (8)リップル周波数について 一般に半波整流は交流の半サイクルを利用する方式と考えられているようであるが、正しくはリップル周波数(コンデンサーに充電電流が流れる回数/秒)が電源周波数に等しい場合を指している。 半波倍電圧方式では交流の全サイクルを利用しているにもかかわらず、リップル周波数が交流電源の周波数に等しいため「半波」の名前がついている。 両波、ブリッジ、両波倍電圧整流方式ではリップル周波数は電源周波数の2倍となる。 |
(9)整流管とダイオードによる出力電流の差はなぜか? メーカー製トランスの規格表を見る時、整流管とダイオードで直流最大出力電流が異なっていること(整流管>ダイオード)に気が付かれた方も多いと思う。 これはなぜだろうか? 一般にダイオード整流時の方が出力電圧が高くなるため、導通角 τ と θ ( τ/π )は整流管使用時と比較して小さくなる。 その結果、整流管と同じ直流電流を取り出した時の ibmax は大きくなければならない。 一方、両波整流時の巻き線電流実効値( Ibo )は第1表の通り θ の平方根と ibmax に比例する。また、 ibmax は θ に反比例する。 たとえば θ が10%低下した場合、ibmax は1.11倍に、Ibo は 1.054倍(0.9の平方根×1.11)に増加する。 つまり、同じ直流出力電流時における巻き線電流の実効値はダイオード整流時の方が大きくなる。その結果、整流管整流の方が多く直流電流を取り出せることとなる訳である。 メーカーでは θ ( τ )の減少率を15%前後で計算している模様である。 しかし、出力電圧特性に関しては内部抵抗の低いダイオード整流方式が良好である。 なお、ダイオード整流の場合でも、直列に整流管内部抵抗に相当する抵抗を挿入すれば、ダイオードのみの場合と比較して10%程度出力電流を多く取り出すことができる。 しかし、挿入した抵抗による電力損失も大きくなり、出力電圧特性も悪化する。 これでは、ダイオードを使用した意味がなくなってしまうので、あまりお勧め出来る方法ではない。次項のCHインプット整流方式の方がはるかに効率的である。 《 チョーク入力方式 》 |
(1)実測リップル電流波形
下の写真はチョーク入力時におけるリップル電流である。 上は ib1+ib2 、中は ib1 、下は ib2 の波形である。(出力電流はコンデンサー入力時の値と同じ) このようにチョーク入力方式におけるリップル電流はコンデンサー入力方式とは全く異なる形をしている。 チョーク入力時リップル電流( ib1+ib2 ) チョーク入力時リップル電流( ib1 ) チョーク入力時リップル電流( ib2 ) 第8図、第9図は両波整流、ブリッジ整流におけるチョーク入力方式の回路図である。 チョークコイルのインダクタンスが(7)式を満たしている時の電圧電流波形は第10図の通りである。 ib1、ib2 はほぼ方形波となり、 ib1+ib2 は出力電流に120HZ(100HZ)を重畳した形となる。(上の写真参照) トランス内部抵抗、ダイオード(整流管)内部抵抗、チョークコイルの巻き線抵抗(合わせて Rsd )を無視した時の両波整流時の出力電圧は(6)式の値となる。 また、 Rsd を考慮したときの出力電圧は(8)式の値となる。 このことは、出力電流値の変化に対して出力電圧( Eo )は常に 0.9Ep という一定値になることを意味している。 しかし、実際は Rsd を無視できないので出力電圧は出力電流の増加に従ってある程度低下するが、電圧変動率を低く出来ることは間違いない。 また、チョークコイルのインダクタンスが(7)式を満たしていない場合はチョーク入力とコンデンサー入力の中間の動作となり、低負荷電流時の出力電圧がかなり上昇するので注意しなければならない。 (3)半波整流におけるチョーク入力 半波整流チョーク入力方式の場合、出力電流波形はサイン波形の上半分に似た形状となるが、出力電圧は 0.45Ep 未満しか得られないので、ほとんど使用されない。 なお、倍電圧整流は半波整流の2段重ねであるから、半波整流と同様に出力電圧が低くなる。したがって、チョーク入力方式は使用されない。 (4)許容出力電流 両波整流(センタータップ方式)チョーク入力時の巻き線電流を方形波と看做した時の実効値は(9)式の通りである。 この時、センタータップとアース間に流れるリップル電流の実効値は巻き線電流実効値の√2倍となり、直流出力電流 Io に等しい。 (9)式の値と θ=0.5 のときの(4)式の値の比を計算した結果が(10)式である。 これは、チョーク入力時の巻き線電流実効値はコンデンサー入力時の 0.64 倍で足りることを示している。 したがって、コンデンサー入力方式の 1.57 倍の出力電流が取り出せることになる訳である。 つまり、センタータップ整流方式における直流出力電流は巻き線電流許容値の √2 倍まで許されることを示している。 また、ブリッジ整流における巻き線電流の実効値は(9)式の2乗の和の平方根、つまり直流出力電流値 Io に等しい。 これは、ブリッジ整流チョーク入力方式における直流出力電流は巻き線許容電流値一杯まで許されることを示している。 (5)電圧変動率 電圧変動率についてはチョーク入力方式がコンデンサー入力方式よりも優れていることは理論的に明らかであるが、使用するチョークコイルには内部抵抗の低い大型で専用のものが要求される。 そのため、経済的効果を考えた時の電圧変動率はコンデンサー入力方式と大差がない。また、トランス、チョークコイルからの漏洩磁束も大きく、うなり音の発生などの欠点もある。 最近では、半導体を使用した安定化電源を採用することにより、チョーク入力方式よりも遥かに電圧変動率を下げることが出来るため、チョーク入力方式はほとんど使用されていない。 しかし、第2表に示す値のおよそ57%増の直流電流が取り出せることがチョーク入力方式の利点である。 |
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《 その他特殊な整流方式 》 以上のほかに3倍圧以上の整流方式がある。これらの方式では取り出せる電流値が少なくなるが、バイアス 電圧確保などには覚えておけば便利である。以下は高倍圧整流方式の接続回路である。 6倍圧整流方式を使用すれば、AC6.3VからDC50V近くが得られることになる。小型トランスの使用と比較 しても費用は安上がりである。 なお、これらの方式では出力側の何処をアース点に選ぶかによって、電圧の異なるプラスマイナス電源とすることが可能である。 |
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