水平出力管の活用法   平成23年11月24日    
 水平出力管はかつて大量に生産され、現在でもかなり安く入手可能である。しかし、使用にあたっては次のような制約がある。
  1. 最大プレート電圧は500V〜900Vまで許容されるが、最大スクリーン電圧(以下SG電圧)は150V〜230Vである。
  2. トランスレス用に製作されているものが多く、ヒーター電源の確保が難しい場合がある。
  3. ヒーター電力が一般の出力管と比較して大きい。
  4. 3極管接続ではSG最大電圧の制約を受ける。
  5. UL接続でも同じ制約を受けるため、特殊なOPT(SG回路用巻き線を備えたもの)を使用するか、特殊な回路を組む必要がある。
  6. SG電圧を低くして使用する場合、電流変動の大きいSG電圧の供給方法が問題である。別電源を組むか、定電圧回路としなければならない。
  7. 規格表にシングル、あるいはPPの動作例が掲載されていない。製作例を参考にするか自分で設計しなければならない。
  8. 相互コンダクタンスが高く、寄生発振防止対策が必須である。
  9. 柳田理論によればSG電圧最大定格は5極管(ビーム管)接続時の値であって、3極管接続時のSG電圧は最大定格を超えてもSG損失が定格内であれば問題なく使用できるとのこと。 6CA10、6RA8、8045Gなどの3極管は多極管の管内でSGがプレートに接続された構造となっている。
 しかし、水平出力管ならではの利点も多い。
  1. 最大カソード電流値が大きい。
  2. 3極管接続時の内部抵抗が低く、OTLアンプに適している。
  3. 数本のヒーターを直列にしてAC100Vから供給可能な場合がある。
  4. 高いプレート電圧、最適SG電圧、最適負荷抵抗によるPP(UL)アンプは大出力が可能である。
  5. トランスレス用の管はヒーターカソード間耐圧が高く設計されている。

 普通に3極管接続で使用する場合はプレート電圧をSG電圧以下とすればよいのであるが、5極管(ビーム管)接続の場合はプレート電圧、SG電圧、負荷抵抗が絡み合っていて複雑である。 たとえば、先日自作した6GB3APPアンプの場合、WEBで検索して得られるデータは少なく、下表の程度である。

設 計 中 心 値
代表的動作例
 ヒーター電圧6.3V プレート電圧40V100V
 ヒーター電流1.2A  SG(Ec2)電圧100V100V
 最大プレート電圧550V G1(Ec1)電圧0V−7.7V
 最大SG(Ec2)電圧200V プレート電流240mA100mA
 最大プレート損失13W G2(Ec2)電流19mA7mA
 最大SG(Ec2)損失5W 相互コンダクタンス14,000μmhos
  内部抵抗5.3KΩ


 上記プレート特性図はSG電圧(EC2)170Vのものである。 この図上にプレート電圧250V時の最適PPロードラインを引けば368Ω(P−P間換算で1472Ω)となり、その時の最大出力は49.4Wに達する。
 しかし、これはプレート損失を無視した計算であるり、中出力時のプレート損失は許容値(13W)を超え、かなり過酷な条件である。 プレート損失を抑えるためには負荷抵抗を1KΩ(P−P間4KΩ)程度まで大きくした方がよいのであるが、SG電圧が170Vのままでは奇数次ひずみが多く、最適条件とは言えない。 コントロールグリッド電圧は−10V付近までしか利用できない。
 最適動作とするためにはSG電圧を下げればよい。一般にはSG電圧をパラメーターとしたプレート特性図を使用すれば簡単に推定できる。 ところが6GB3Aでは公表されていない。これでは、P−P間4KΩ時のSG電圧は何Vに設定すればよいのか不明である。
 代表的動作例の表をよく見ればプレート電圧40V、SG電圧100V、EC1=0V時プレート電流240mAとある。 これを基にしてSG電圧100V、EC1=0V時のプレート電流を推定した曲線が下図の、緑実線である。
 これにプレート電圧250Vとして1KΩ(P−P間4KΩ)のロードライン(青線)を記入すればほぼ最適条件となることが分かる。 赤色点線はプレート損失13Wを表している。


 このロードラインから最大出力を計算すれば下記の通り24.2Wとなる。各出力時のプレー損失も規格内に収まっている。

     (250V−30V)×0.22A÷2=24.2W

 実際はプレート電圧、SG電圧ともに低下するため15%減、さらにOPTの損失を考慮すればOPT2次側で得られる最大出力は17.5W程度に下がると思われる。 先日製作した6GB3APPアンプでは最大出力約18Wが得られた。



 続いて、次に製作を検討している6DQ5PPアンプについて動作条件を検討する。WEBで検索したデータの概略は以下の通りである。
設 計 最 大 値
代表的動作例
 ヒーター電圧6.3V プレート電圧70V175V
 ヒーター電流2.5A  SG(Ec2)電圧125V125V
 最大プレート電圧990V G1(Ec1)電圧0V−25V
 最大SG(Ec2)電圧190V プレート電流550mA110mA
 最大プレート損失24W G2(Ec2)電流42mA5mA
 最大SG(Ec2)損失3.2W 相互コンダクタンス10,500μmhos
  内部抵抗5.5KΩ


6DQ5ではSG電圧を変えた時のプレート特性図が発表されているので、そのプレート特性図上に1.25KΩ(PP間5KΩ)と625Ω(PP間2.5KΩ)のロードライン、および最適SG電圧時の特性を記入したものが下図である。


  1. PP間5KΩの時
     プレート電圧400V時の最適SG電圧は85V前後である。このときの最大出力を計算すれば53.8Wとなる。

      (400V−35V)×0.295A/2=53.8W

     最大出力時のプレート損失は14.5W程度である。中出力時も最大損失24Wを下回っている。
     プレート電圧を450Vまで上げ、SG電圧を95V程度とすれば最大出力はさらに増加して70Wに達する。

  2. PP間2.5KΩの時
     同じくプレート電圧400V時の最適SG電圧は130V前後である。このときの最大出力は98Wに達する。

      (400V−50V)×0.56A/2=98W

     最大出力時のプレート損失は25.4W程度で、許容損失をわずかに上回っている。ロードラインも許容プレート損失のはるか上にある。 AB級、B級動作時のプレート損失の最大値は中出力時にあることから少し過酷な条件である。
     それでもOTLアンプの場合と比較すれば余裕の動作であり、実際に音楽を聞く場合は全く問題ない。 しかしながら家庭用としては過大出力である。
 6DQ5PPはPP間5kΩ、最大出力50Wの動作条件が適していると思われる。歪の点からも見てもPP間5KΩの方が有利である。
 6DQ5のヒーター電力はEL34の1.67倍であることから、ビーム管接続時の最大出力がEL34を上回ることは当然の結果である。 EL34のような高電圧動作をさせれば150W近い出力が簡単に得られるであろう。ただし、使用できる120Wを超えるクラスのPP用OPTは非常に高価である。

 このように水平出力管(ビーム管)はプレート電圧、負荷抵抗によって定まる最適SG電圧で動作させれば十分能力を発揮するすぐれものである。


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