ロードラインによる最大出力計算   平成18年9月2日    

 一般に出力管の最大出力は真空管の規格表から概略値は求めることが出来るが、規格外の使用条件ではロードラインを引いて最大出力を計算する必要がある。 そのロードラインについては、一般には直線と思われている方が多いのではないだろうか。 確かにシングル動作では直線となるが、プッシュプル動作では個々の真空管のロードラインは曲線(近似双曲線)となることは意外と知られていないと思う。 そこで、シングルアンプ、PPアンプ、SEPPアンプについてロードラインの考え方、最大出力の求め方について考えてみることにする。 ここでは代表的3極出力管である2A3(SEPPは6080)を取り上げ、バイアス方式は全て固定バイアス方式とする。

《 シングルの場合 》

動作条件を
   プレート電圧Eb=250V
   バイアス電圧Ec=−43.5V
   RL=2.5KΩ
とし、プレート特性図上にロードラインを作図して最大出力を計算する。第1図参照。
 まず最初にプレート電圧とバイアス電圧から動作基点 O を定める。次に O点を通る傾きがマイナス2.5KΩの直線を引きEc=0Vとの交点を P とする。 (マイナスとしたのは傾きが右下がりのためである。以下、マイナスの表記は省略する。)
 次に、Ec=−87Vのラインとの交点を Q とすれば、最大出力は△PRQの面積の1/4として求めることが出来る。 この場合、入力電圧30.8V(43.5÷√2)の時、最大出力3.4Wが得られることになる。
 2.5KΩのロードラインに引き方は、(0V,100mA)と(250V,0mA)の2点間に引いた直線を平行移動すれば良い。
 この時、気を付けねばならないことはロードラインが O を基点として対称でないことである。 つまり、Ec=−43.5VからEc=0Vまでスイングした時のプレート電圧変化は150Vであるのに対して、Ec=−87Vまでスイングした場合のプレート電圧変化は110Vである。 これが何を意味するか、すなわち多量の偶数次歪を含んでいる。プレート特性が比較的整っている2A3の場合でもかなりの歪が発生するということである。

《 A級プッシュプルの場合 》

動作条件はシングルの場合と同じで
   プレート電圧Eb=250V
   バイアス電圧Ec=−43.5V
   RL=5KΩ(PP間)
とする。
 プッシュプルの動作を見るとき、別々にプレート特性図を使用するのではなく、第2図のように一方を180度回転し、動作基点(O)をそろえて上下に並べた方が判りやすい。
 その時、各プレート電圧について、相対する特性曲線から求められるV1、V2のプレート電流の差をプロットして作図した合成特性曲線(第2図青線)が便利である。 なお、この例での相対する組み合わせはV1側0V、−10V〜−43.5V〜−87Vに対してV2側−87V、−77V〜−43.5V〜0Vであるが、バイアス電圧が異なれば、相対するプレート特性曲線の組み合わせも変えなければならない。 こうして作成した合成特性曲線は曲がりが少なく、ほぼ直線とみなすことが出来る。そこで合成特性曲線の作図は、相対するプレート特性曲線が電圧軸と交わる点から垂線を引き、それぞれの特性曲線と交わる点を結んだ直線で代用することが出来る。 第3図右の直線SKはV2 側Ec=−87V、V1側Ec=0Vの組み合わせ作図例である。
 ここで合成特性曲線の意味について考えてみる。 たとえば、一方のプレート電圧がΔEbだけ上昇し、プレート電流がΔIbだけ増加したとき、もう一方の側ではプレート電圧はΔEbだけ低下し、プレート電流はΔIbだけ減少する。
 このときP−P間の電圧は2ΔEb、P−P間の電流はΔIbである。ところがこれを合成特性曲線上で見れば、プレート電圧がΔEb変化したとき、電流は2ΔIb変化している。 つまり、電圧スケールは半分に、電流スケールは2倍になっている。 合成特性曲線の傾きはP−P間から見た出力管の合成内部抵抗の1/4を表しているということである。(第3図参照)
 したがって、合成特性図上に合成ロードラインを記入するとき、電圧を半分に、電流を2倍した状態、つまりP−P間インピーダンスの1/4の傾きで記入しなければならない。 その合成ロードラインが第2図の赤線(POQ)である。また、個々の球についてのロードラインは緑線のように曲線 (P111、P222)となる。 このロードラインの傾きは実際の負荷抵抗を表しているのであるから、プッシュプル動作では入力電圧に応じてV1、V2の負荷抵抗が変化することを表している。 ここがシングルアンプとプッシュプルアンプの大きく異なる点である。一般にPPのロードラインとは合成ロードラインを指しているので注意が必要である。
 合成ロードラインから最大出力を求める方法は、シングルの場合と同様に△PTQの面積の1/4として計算される。 このときOP=OQであることに着目すれば最大出力は△PROの面積に等しい。 したがって、プッシュプルの最大出力は、一般的に片側のみのプレート特性図に合成ロードラインを記入して求める方法が取られている。 ただし、A級PPの場合は第2図上の点P、点Qは遊び電流分だけ点P1、点Q2から離れているので注意が必要である。

《 AB級プッシュプルの場合 》

 一般にAB級の場合は、最大出力を大きくするため、プレート電圧300V、バイアス電圧−60V辺りで使用されることが多いが、ここではA級PPと比較するため
   プレート電圧Eb=250V
   バイアス電圧Ec=−50V
   RL=3.5KΩ(PP間)
の動作条件とする。最大出力付近のみ片側出力管がカットオフする浅めのAB級である。
 A級PPの場合と同じく、合成特性曲線、合成ロードラインを作成したものが右の第4図である。 この図を第2図と比較すれば、合成特性曲線の傾きが小さくなっている。つまり、グリッドバイアスが深くなった分、合成内部抵抗も大きくなることを示している。 この例の相対する組み合わせはA級PPと異なり、V1側0V、−50V、−100Vに対してV2側−100V、−50V、0Vである。 
 合成ロードラインを使えば、A級PPの場合とまったく同じで最大出力は△PROの面積として求めることができる。 プレート電圧250VのAB級PPでは約10Wの最大出力が得られることになる。プレート電圧300V、グリッドバイアス−60Vの条件では約15Wの最大出力が得られる。
 AB級(B級)PPではA級PPと異なり、無効電流がないので、合成ロードラインとEc=0V特性曲線の交点を求めれば最大出力が計算できる。 つまり、合成プレート特性図がなくても計算することができる。

《 最適負荷抵抗 》

 最適負荷抵抗の求め方は3極管と5極管ではまったく違っているといってよい。
 3極管の場合、負荷抵抗と出力管の内部抵抗が等しい場合に最大出力が得られる。 第5図右の通り△PROが二等辺三角形となる場合である。 ただし真空管の最大定格以内の動作基点を選ばねばならない。
 シングルアンプの場合、最大出力が得られる負荷抵抗ではロードラインが立ちすぎ、動作基点で定格をオーバーすることが多い。 また、バイアス深めの動作基点を設定したのでは歪の発生が多くなってしまう。 そこで、一般には内部抵抗の数倍の負荷抵抗が採用される。 このとき負荷抵抗を大きくすれば歪は少なくなるが最大出力も小さくなる。 PP動作の場合も、電源電圧の低下等を考慮して計算上の最大出力が得られる負荷抵抗値よりも大きくするのが一般的である。 つまり、最大出力が得られる値と歪が最小となる値の中間値である。メーカー発表の規格も概ねそのようである。
 一方、5極管では第5図左のようにロードラインがEc=0V特性曲線の左肩出っ張り部分で交わるように負荷抵抗を設定すれば、最も歪が小さく最大出力も大きく取れる。 このように、5極管では内部抵抗と負荷抵抗値に相関はない。 また、最大出力はスクリーングリッド電圧にも大きく影響され、最大定格を超えない範囲でスクリーングリッド電圧は高くした方が最大出力は大きくなる。 ビーム管の場合は一層肩特性の出っ張りが鋭くなっているので、最大出力は大きく取れるが最適負荷抵抗の範囲が狭くなり、負荷抵抗の設定には注意が必要である。

《 SEPPの場合 》

 出力管には6080を使用し、
   プレート電圧Eb=150V
   バイアス電圧Ec=−65V
   RL=32Ω(4ユニットパラ8Ω)
の動作条件とする。
 SEPPの場合もA級PP、AB級PPの場合と同じで合成特性曲線上に合成ロードラインを引けば、最大出力は△PROの面積として求めることが出来る。
 この例ではほとんどB級に近い動作であるから合成特性曲線を作成しなくても最大出力は求められるが、Ec=0VとEc=−130Vの組み合わせのみ作成した。 この合成特性曲線は標準PP動作の場合と違って、出力端子からみた電圧電流特性そのものを表している。 つまり、出力端子の電圧がΔEb上昇したとき、V1の電流がΔIb増加し、V2の電流がΔIb減少したとすれば、出力端子へは2ΔIbが流れることになる。 なお、合成特性曲線の傾きは出力端から見た内部抵抗を表し、その値はrp/2である。
 したがって、標準PPではPP間負荷抵抗の1/4のロードラインを引いたが、SEPPでは負荷抵抗そのままの値でロードラインを引けばよい。 その辺りを右の第6図に表している。
 4ユニット並列とした場合には8Ω負荷は1ユニット当たりに換算すれば32オームであるから、第6図の合成ロードラインは32Ωに対するものである。 この図から得られる最大出力(7.7W)の4倍(30.8W)が4ユニット並列時の最大出力となる。
 最適負荷抵抗値は1ユニット当り120Ω前後であり、そのときの最大出力は12W程度、4ユニットパラでは32Ω負荷で48W程度の最大出力が得られる。
 ところで、第6図を見れば第2図、第4図と違って、極端にロードラインが立っている。 しかも最大出力時のプレート電流の瞬時値は1ユニット当たり700mA(平均値230mA)に達し、プレート損失は許容値をはるかに超える。 つまり低RLSEPPOTLアンプの場合、出力管はかなり無理を強いられており、出力/消費電力の点から見ても非常に効率の悪いアンプである。 また、最大出力時のプレート電圧がかなり低下することは避けられず、無信号時のプレート電圧180V程度を確保しなければ計算値通りの最大出力は得られない。 その時、バイアス電圧−65Vではプレート損失を軽くオーバーするので−80V程度で1ユニット当たりのプレート電流を50mA以下に抑える必要がある。
 その一方、200W超の大出力アンプであれば、通常のPPアンプよりSEPPOTL方式で設計した方が楽であり、費用も安くあがる。私も1度は挑戦してみたいと思っている。
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