負帰還(NFB)について 平成19年5月5日    


 自作アンプ、既製品アンプあるいは半導体アンプ、真空管アンプに限らず、ほとんどのアンプには負帰還(NFB)回路が使用されている。 NFBはアンプの性能向上のためには非常に有効な技術であるが、その弊害も発生することが多い。 特に裸特性の良くないアンプにNFBをかければ簡単に発振器に変貌することが多いので注意が必要である。
 ここでは一般的な電圧帰還方式をについて考えることとする。

 なお、本文中に使用されている μ は回路の無帰還(裸)利得を表しており、3定数の μ とは違っているのでご注意いただきたい。

《 帰還(電圧帰還)についての基礎知識 》

 右の第1図は帰還回路のブロックダイアグラムである。入力電圧が eの時の出力電圧をEとすればE/e倍増幅したことになるが、これを外部利得(A)と言い、βを帰還率と言う。 そして1+μβを帰還量と言い、一般にdBで表される。また、μβをループ利得と呼ぶ。(ループ利得については後述)
 さらに、右下の(6)式の通り、μβが1より十分に大きい時は

    A≒μ/μβ

     =1/β

となり、無帰還利得μが変化しても外部利得(A)はほとんど変化しなくなる。
 しかし、一般の真空管アンプではμβはあまり大きくならないのが普通であり、少なくとも μβ>10 の条件を満たさなければ外部利得(A)の誤差は10%以内に収まらない。
 少量の負帰還を施したアンプでは外部利得(A)を1/βで計算した時の誤差は非常に大きくなるので注意が必要である。

《 負帰還の長所短所 》

 NFBには次のような利点がある。
  1. 周波数特性が低域高域ともに広がって平坦となる。
  2. 歪みが減少する。
  3. 雑音が減少する。
  4. 出力インピーダンスが低下する。
また、欠点については次の通りである。
  1. 高域にピークが発生する。高域の過渡特性が悪化し、最悪の場合は発振を起こす。
  2. 低域に付いても同じである。発振に至らなくても低域の過渡特性が悪化する。
  3. 以上の現象により音質に少なからず影響を及ぼす。
 NFBをかければ高域、低域にピークが発生、あるいは発振するのはなぜであろうか。
 増幅回路の段数、正確には時定数の個数により1箇所に付き最大90度の位相変移が発生する。 OPTを含まない2段増幅回路では最大位相変移は180度であるが、3段では最大位相変移は270度となって、必ず180度の位相変移を起こす周波数が存在し、周波数特性にピークが発生する。 OPTは低域に関しては1段の時定数であるが、高域に関しては2段に相当し、高域の位相変移は最大で270度以上に達する場合があるので注意が必要である。 以上のように帯域両端付近で180度の位相変移が発生した場合、その付近では、負帰還ではなく正帰還となっている。
 その時、(3)式は(4)式のようになり、その時の外部利得(A)は

    A=μ/(1−μβ)

と表される。そのため、ループ利得(μβ)が1であれば上式の分母が0となって外部利得は無限大、つまり発振する。 なお、発振の必要条件は μβ=1 かつ 位相変移=180度であるから μβ=1 のみでは発振しない。 しかし、発振に至らなくとも μβ=1 の近傍では外部利得(A)が増加し、ピークが発生する。

《 負帰還量の計算方法 》

 負帰還量は1+μβであらわされるが、アンプを測定して簡単に得られるデータは外部利得Aと負帰還回路の定数から求められる帰還率βのみである。 裸利得μは(5)式を変形した(7)式にAとβを代入して求めることができる。負帰還量(1+μβ)も同様に計算できる。 また、(1+μβ)をdB換算すれば、一般に言われている負帰還量(dB)が求められる。
dB換算は エクセルの計算式を用いれば

 負帰還量(dB)=20×LOG10(1+μβ)

で簡単に求めることができる。 

《 ループ利得(μβ)について 》

 前出のループ利得(μβ)について考える時、ループ位相(φ)を切り離すことは出来ない。ループ 利得(μβ)とは、増幅回路から帰還回路をぐるっと一回りした利得であるが、右の第2図はその概念 図、第3図は負帰還を初段カソードに戻す、最も一般的な回路についての測定回路である。その方法は 負帰還回路を切り離しRkと同じ値の抵抗でアースに接続し、入力電圧(Ei)を一定に保ち、周波数を 変化させた時のEoを測定する。(Viの指示値:Ei、Voの指示値:Eo)
 そのとき、ループ利得(μβ)は

    μβ=Eo/Ei

で求めることが出来る。なお、ループ位相(φ)はオシロスコープのX−Y入力を使用して求めること が出来る。入力信号を垂直入力、出力信号を水平入力に接続した時のリサージュ図形と位相角(φ)の 関係は以下の通りである。


  φ=0°    φ=45°    φ=90°   φ=135°   φ=180°



 また、位相角は第4図の計算式で求めることも出来る。
 ループ位相(φ)が−180°の時のループ利得(μβ)を利得余裕あるいは利得マージン、反対に、 ループ利得(μβ)が1の時のループ位相(φ)と−180°との差を位相余裕あるいは位相マージン と呼ぶ。位相余裕、利得余裕が小さくなるとその周波数でピークが発生する。
 次に、2台の自作のアンプ(36LW6PP、36LW6×6SEPPOTL)について作成したループ利得 とその位相角のグラフ(ボーデ線図)を示す。SEPPOTLアンプの場合、高域補正無しでも高域に ピークは発生していないが、OPT付である36LW6PPアンプの場合、高域補正無しでは180KHZ 付近に大きなピークが発生している。ボーデ線図からも180KHZで位相余裕、利得余裕共にともに 減少していることが読み取れる。しかし、微分型、積分型高域補正を取り付けることにより改善され ている。
 SEPPOTLアンプは高域の位相変移が少なく、広帯域アンプであることを再認識した。一方、O PT付きPPアンプの高域特性はOPTの高域特性に大きく左右されるので、その選択が非常に大切で ある。

《 36LW6×6SEPPOTLアンプのループ利得とループ位相、および周波数特性 》

《 36LW6PPアンプのループ利得とループ位相、および周波数特性 》

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