出力トランスの定損失 平成22年1月17日    

《 OPTについての基礎知識 》

 出力トランス(以降OPT)の解析はアマチュアにはかなり難解な理論であるが、中域に限って等価回路を作れば比較的容易である。
 ここでは武末氏の著書を参考にしながらOPTの定損失について考えることにする。

 OPTの規格表には
  1. 1次側(PP用はP−P間)、2次側インピーダンス
  2. 低域における最大出力(PP用では20〜30HZ、シングル用では40〜50HZ辺りが多い))
  3. 1次側インダクタンスおよびその変化幅(H)
  4. 定損失(dB)
  5. 周波数特性(−3dBの範囲)
  6. 1次側許容電流(PPの場合は2本分)
等が表示されている。巻数比(n)は記載されていないが、1次2次インピーダンス比の平方根として簡単に求めることが出来る。
 また、ほとんどのOPTにはSG端子が設けられているが、SGタップはB−P間の43%位置から取り出されているものがほとんどである。
 なお、PP用では1次側電流は逆方向に流れ直流磁化は発生しないが、シングル用では直流磁化の影響が避けられないので、コアーに空隙を設けるなどして影響を小さくする対策が取られている。 そのため、シングル用では巨大なコアーに太い銅線を多量に巻かなければ1次側インダクタンスを大きくすることが出来ない。それでもPP用と比べて1桁低い値となっている。

《 OPTの効率と定損失 》

 右の第1図がOPTの等価回路、さらに中域について影響の小さいパラメーターを省略した簡易等価回路が第2図である。
 OPTの電力効率は1次側入力電力に対する2次側出力電力割合であるから下の計算式で求めることが出来る。

 電力効率=出力/入力×100%
あるいは
 電力効率=出力/(出力+損失)×100%

 損失は1次2次巻線抵抗による発熱量の合計として計算できるので、第2図の等価回路から導いた電力効率計算式は次の通りとなる。




 伝送損失(dB)は上の電力効率をdBで表示したものであるから、

  となる。



 この値は周波数に無関係となるので「定損失」と呼ばれている。 市販されているOPTの定損失はプッシュプル用で0.2〜1dB(効率96〜89%)、シングル用で0.3〜1.5dB(95〜84%)程度である。 特に小型シングル用では実に15%以上の電力がOPTで消えてしまうことになる。



《 定損失の計算例 》

 では、実際にOPTの定損失を試算するとどうなるだろうか。右の第3図はFW−20Sの端子配列と1次、2次のインピーダンス、巻数比()である。
 定損失は巻数比()、1次と2次の巻線抵抗(r1、r2)、負荷抵抗(Zs)の4個のパラメーターが判れば求めることが出来る。そこで残りの1次、2次の巻線抵抗を実測した結果が下の第1表である。
 このとき注意しなければならないことは、1Ω未満の値を正確に測定する方法である。 一般的にはブリッジを使用しなければならないが、最近のデジタルテスターには低抵抗測定レンジがあり、かなり正確であるので、今回はそれを使用した。 なお、測定時の温度は6℃であったので、実際の使用温度を50℃と仮定して換算した値が右の第2表である。




 抵抗値の温度換算は以下の計算で求めた。


 カタログ記載値と第1表、第2表のデータに基づいて計算した定損失の比較表が第3表であるが、50℃の時の計算値が最もカタログ値に近似していた。


 次に、2次側負荷として8Ω端子に16Ωを接続、あるいは8Ω端子に4Ωを接続して1次インピーダンスをそれぞれ2倍、半分とする方法が良く行われているが、その時、定損失はどのように変化するか計算した。
 計算に用いた巻線抵抗値は第2表(50℃)の数値である。また定損失の比較は第3表の50℃のデータに対してである。


 このデータを見ると前者では定損失が30%程度減少するが、後者では定損失が60%程度増加している。 しかし、電力効率の変化はそれぞれ+2%、−3%程度であるから、極端でない限り問題ではないであろう。
 このOPTは比較的巻線抵抗が小さい製品であるが、1次側巻線抵抗値が500Ωの製品も存在する。このようなOPTに最大定格電流を流した場合、温度上昇によって巻線抵抗が増加し、更に温度上昇を招くという悪循環が起きる可能性がある。 定損失は全て熱に変化するので注意が必要である。
 OY型OPT断線の原因はこのあたりにあるのかもしれない。電解コンデンサーほどではないにしても、OPTも放熱に注意して配置しなければならないと感じた。


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