PPアンプのDC、ACバランス調整   平成20年12月26日

《 はじめに 》

 プッシュプルアンプのバランスにはDCバランスとACバランスがあり、DCバランスについては調整用VRがあれば比較的簡単である。 比較的とは、予めプレート電流測定用回路を組み込んであれば簡単であるが、そうでない場合は少し難しいことを意味している。 しかし、ACバランスについてはペアーチューブを使用し、位相反転段のバランスを考慮しただけで終わっている例が多い。 果たしてそれだけで十分であろうか。
 私の経験からすれば、ACバランスを調整したアンプとそうでないアンプでは歪率にかなりの差が見られる。 また、球が劣化して来ればDCバランス、ACバランス共に狂ってくることが多い。

 カソード結合型位相反転回路において、私が行うACバランス調整法は以下の通りである。 この方法では必ずしもペアーチューブを使用しなくても良い。

《 DCバランス 》
  1. 右の第1図の様に、出力管カソードに10Ω(2W)を個別に挿入する。 この抵抗は1〜10Ω程度であれば使用できるが、同じ値のものを選別しなければならない。 これが前出のプレート電流測定回路である。 小さな値では正確な抵抗の組み合わせが難しく、反対に大きな値では電流帰還が大きくなって最大出力が低下する。

  2. 次に、DCバランス、つまり無信号時の出力管プレート電流を規定値に合せる作業から開始する。 この時、バイアス電圧調整用のVR2はバイアス電圧が深くなる位置に、バランス調整用のVR1は中央位置に合わせてから電源SWを投入する。 出力にはダミー抵抗を接続し、入力VRは絞った状態(入力短絡)とする。

  3. プレート電流が流れ始めたら、VR1を調整してV1の指示値を0Vに維持し、VR2を調整してV2の指示値を規定電流×10(mV)に合せる。 その値(mV)を10で割った値がプレート電流(mA)である。 カソードに挿入した抵抗が1Ωであれば規定電流×1(mV)に合せれば良い。

  4. 30分程度ウォームミングアップした後、再度(3)を実施すればDCバランス調整は終了である。
《 ACバランス 》

 次はACバランス調整に移る。低歪低周波発振器と歪率計があれば最良であるが、低周波発振器のみでもかなりのレベルまで調整可能である。 歪率計がない場合の調整法は以下の通りである。
  1. 第1図の様に位相反転段下段のプレート抵抗と直列に可変抵抗(10KΩ)を挿入する。 一般にカソード結合型の出力電圧は下段出力の方が小さいので、そちらへ挿入する。

  2. 負帰還抵抗は取り外し、出力端子にダミー抵抗(8Ω)を接続し、1KHZの信号を入力できる状態とする。

  3. V1の指示値がほぼ0Vであることを確認して1KHZ信号を入力する。ダミー抵抗の容量に余裕があれば最大出力付近まで加えて見る。

  4. ペアーチューブを使用した場合であってもV1の指示値は変化するので、VR3を調整してV1指示値が0Vとなる位置を探す。 最大出力領域まで指示値が0V付近(許容アンバランス電流値未満)であれば、出力段のACバランスは十分取れている。 また、ACバランスが狂っている場合、OPTの鉄心からかすかな振動音が発せられるが、V1指示値が0V付近になれば音が小さくなる。

  5. VR3を0Ω、あるいは最大にしてもV1指示値が0V近づかないときは出力管の上下を差し替えてみるとよい。勿論その場合は再度DCバランス調整から始める必要がある。

  6. VR3はそのままでも良いが、同じ値の固定抵抗に置き換えれば終了である。

《 まとめ 》

 歪率計があれば、1KHZ1W時の歪率が最も低くなるよう調整すればよい。 いずれにしても、ACバランス調整はDCバランス調整後に実施しなければ意味がない。
 このように、ペアーチューブでなくても、上下のドライブ電圧をアンバランスにすることにより出力管のgm差を相殺してACバランスをとることが可能である。 特に古いアンプの修理調整などはこの方法が非常に効果を発揮する。 現在ではほとんど入手不可能となりつつある50CA10などでも、よほど劣化していない限りこの方法で調整できる。
なお、PK分割型位相反転回路であっても、カソード側抵抗とプレート側抵抗のどちらかを調整すれば同様に可能である。


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