打ち消し回路について   平成17年 5月 9日    


SEPP回路の打ち消し動作について「ドライバー段についての注意点」 のページで、少し触れているが、ここでもう少し詳しく検討することにした。 なお、以下の図面ではグリッドバイアス回路等を一部省略して簡略化している。



SEPP回路にはなぜ打ち消し回路が必要か?

 出力管の入力電圧はそのコントロールグリッドとカソード間(G-K間)に加えねばならない。 第1図を見ていただければ、ドライバー段からの出力電圧Ed1は上段出力管のG-K間ではなくコントロールグリッドとアース間(G-E間)に加えられている。 一方、上段出力管とアース間(K-E間)にはSEPP回路の出力電圧(Eo)が存在する。 しかもEd1と同相であるため、上段の真の入力電圧Eg1は Ed1−Eo となる。下段の入力電圧はEg2=Ed2 であるから、このままではEg1<−Eg2 (Eg1+Eo=−Eg2)となり、平衡ドライブが出来ない。 そこで Eg1=−Eg2を成立させるために「打ち消し回路」が必要となる。ここがOPT付きPPアンプと大きく異なる点である。
 もちろん、入力トランスを使用すれば、Eg1を上段のG-K間に直接入力する事が可能となり、打消し回路は不要である。 しかしながら、折角のOTLに入力トランスを使用することは避けたいところである。第2図参照。




Eg1=−Eg2を成立させるためにはどうすればよいか
  1. 単純に上段のドライブ電圧を大きくする方法     
      (マコーフスキーアンプが有名)


     PK分割型位相反転回路のプレート抵抗をカソード抵抗よりも大きくしてEp>−Ek とし、Ep=−Ek+Eo が成立するようにRp、Rkを設定すれば、Eg1=−Eg2 となり平衡ドライブが可能となる。 しかし、この方式は負荷が変動した場合、かなりの不平衡を生じる欠点(負荷が大きくなるとEoが増大し、Eg1が小さくなる)があり、その欠点を補うためには多量の負帰還を併用する必要がある。
    (第3図参照)
     その他にも同じ様な方法として、位相反転管を省略し、V1側のみもう1段増幅する方法、あるいは、自動平衡型の位相反転回路をアンバランス動作させる方法等があるが、いずれも負荷が変動した際のアンバランス発生、あるいは低域時定数増加等の欠点がある。



  1. プレート電源側に打ち消し電圧を重畳する方法
      (ブートストラップ方式)


     原理的にはドライブ段のプレート電源を出力段の中間点(出力点)から供給すれば100%打ち消し動作が可能であるが、この方法ではドライブ段のプレート電圧が低くなり、ドライブ電圧が不足する事態となる。
     そこで、出力電圧Eoをドライブ段のプレート回路にCdとRdを介して注入する方法が日本人アマチュアにより考案され、古くから行われてきた。 これによりEg1をEoだけ嵩上げ(正帰還)することにより打ち消し動作が行われ、平衡ドライブが可能となる。
     このとき、負荷が変動しても上の単純嵩上げ方式と違って、打消し動作には影響を与えないので平衡ドライブは崩れない。
    (第4図参照)

     この方法はカソード結合型位相反転回路にも使用可能であるが、PK分割回路に使用した場合と比較して平衡ドライブのバランス少し劣るようである。 しかし、ドライブ電圧が高い場合は有効な方法である。
     下段のプレート回路に挿入している抵抗は、上下の直流動作条件を同じにするためのものであり、Rdと同じ値のものを使用する。 ただし、NFB量が多い場合は省略しても差し支えない。(第5図参照)















  1. PK分割型位相反転段カソード側に打ち消し電圧を加える方法その1(フッターマン方式)

     この方式はフッターマンアンプに採用され、あまりにも有名であるが、正帰還方式と考えられる。 つまり、カソードにEoを注入することにより、PK分割型位相反転回路に生じていた負帰還の一部分が打ち消される。(正帰還) その結果、Ep、EkをおよそEoだけ押し上げることになリ、以下計算の通り平衡ドライブが可能となる。 (第6図参照)

         Eg1=Ep−Eo
         Eg2=Ek+Eo
         Ep=−Ek であるから
         Eg2=−(Ep−Eo)
       ∴ Eg1=−Eg2 


  1. PK分割型位相反転段カソード側に打ち消し電圧を加える方法その2(全帰還方式)

     この方式はフッターマン方式の出力を襷がけに変えたものである。(第6−2図)襷掛けに変更することにより、出力電圧の全量が位相反転段に負帰還され、効果は次項のテクニクス方式と同等である。
     この方式では出力点の極性が他の方式とは反対となるため、3段増幅では出力点から初段カソードへの負帰還がかけられない。 そのため、増幅段数を4段としなければならない。その結果、時定数が4段となるため、直結箇所を増やなければ低域不安定の要因となる。
     しかし、SEPPOTLではOPTを含まないため、低域時定数が3段であってもその配分に気を付ければ低域不安定とはならない。
     前項の方式とも、Rk1=Rp であれば Eg1=−Eg2 が成立する。なお、Rk2は200Ω前後の値が適当であり、50Ωでは電力損失が16%に達するので注意が必要である。
  1. 全量負帰還型(テクニクス方式)

     V1側に掛かる負帰還はそのままにしておき、Vd2へ同じだけ負帰還をかけて平衡ドライブを行う方法であるが、テクニクス20A型SEPPOTLアンプに採用された事から「テクニクス方式」と呼ばれている。
     Ep2(Eg2)=−Ep1+Eo となるように帰還用抵抗(Rf)を調整することにより平衡ドライブが可能である。第7図参照。
     この方式は出力管のドライブ電圧が高い場合に注意が必要である。また、Vd2側の出力インピーダンスが負帰還により低下しているため、高域特性が上下アンバランスとなり、10KHZの歪率が悪化する場合がある。 その対策として、V2のコントロールグリッドに小容量のコンデンサーを挿入して高域特性のアンバランスを調整する必要がある。



  1. 正帰還負帰還併用方式

     この方式は「宮崎良三郎氏」が考案されたもので、私は「宮崎方式」と呼んでいる。前段の定電流管カソードに打ち消し電圧を注入する方法である。 ブートストラップ型、テクニクス型等と異なり、打ち消し回路中に電解コンデンサーが必ずしも必要でなく、時定数が1個少なく、しかも出力電圧が稼げる(ブートストラップ型とテクニクス型の中間)大変優れた回路と思っている。 私の製作したSEPPOTLアンプのほとんどに採用している。
     この回路の基本的動作は差動増幅回路のカソードに打ち消し電圧を注入する方法である。 その打消し電圧はVd1に対しては正帰還として作用し、Vd2に対しては負帰還として作用する。 その注入電圧を調整する事により平衡ドライブを可能にしている。 初段との間が直接結合の場合、差動増幅回路のカソードの直流電位が高く、打ち消し電圧を直接注入するには電解コンデンサーが必須である。 そこで定電流管のカソードに注入することにより、定電流管の増幅作用が利用出来、注入電圧が小さくても平衡ドライブが可能となる。 しかも、電解コンデンサーを省略しても、スピーカーに流れる直流電流は0.2mA程度と無視できる値にすることが出来る。第8図参照。
     この方法でも上下高域特性のアンバランスが発生するので、テクニクス方式と同様に対策が必要である。







まとめとお願い

 以上のいくつかの打ち消し方式の内、ブートストラップ、フッターマン方式以外では、打ち消し電圧の微調整が必要である。 歪率計を使用しなければ歪率の最小点を見出すことは難しいかも知れない。 
 なお、このページは、これからSEPPOTLアンプの製作を考えられている方に打ち消し回路を理解していただくために、また自分自身の理解を深める目的で作成した。 しかし、私にとってSEPPOTL打ち消し回路の解析は難しく、諸先輩方の研究の成果を利用させて頂いているに過ぎない。 文中には私の勘違い、あるいは間違い等があるかも知れない。 お気づきの点、ご不明な点は、ご遠慮なくご指摘、ご連絡いただきたい。


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