シングルアンプの歪打ち消し 平成20年12月12日    


《 はじめに 》

 3極出力管シングルアンプでは300Bのようにプレート特性が揃った球でも偶数次歪を含んでいることはよく知られている。 また、6CA10(50CA10)などの3極管、あるいは大型5極管(ビーム管)の3極管接続もNFBを前提として開発されたものであるからプレート特性がお世辞にもきれいとは言えない。 そのため偶数次歪を多く含んでいる。
 NFBを多量にかければプレート特性の不揃いは無視できるまで改善できるが、高域にピークが発生するなどの悪影響も多く見られる。 NFBが少なくても低歪とするには、裸特性が良くなければならない。

《 歪打ち消し法 》

 シングルアンプで歪打ち消しを行おうとする場合、出力段で発生する歪と逆相の歪を前段で故意に発生させ、総合的歪を減少させる。 一般には3極管同士で歪の打ち消しを行わせることが多いが、前段が5極管であっても動作点を選べば偶数次歪を打ち消すことが可能である。 前段が3極管の場合、プレート特性があまり揃っていない球(12BH7A等)を使用する。しかし動作点の調整が少し面倒である。 その点5極管ではスクリーン電圧により偶数次歪の大きさをコントロール可能であり、3極管よりも打ち消しが確実となるのではないだろうか。
 昨年製作した50CA10シングルの場合、前段(6267)のスクリーン電圧を低くすることにより偶数次歪の打消しを行わせ、低歪率を実現していた。 先日、初段を12AX7SRPPに改造したところ、15dBのNFBにもかかわらず、1KHZ1W時の歪率は1%前後と良くない。 SRPP回路は歪の発生が少ないため、歪の打ち消しには適さないと思われる。
 そこで、前段を6267に戻し、出力段(50CA10)の歪打ち消し実験を行った。

《 実験方法 》

 積極的な歪打消しを行わない動作例とスクリーングリッドとアース間に挿入した可変抵抗器でスクリーングリッド電圧を変化させて測定する。 (測定は1KHZについてのみ)以下の5通りについて歪率を比較する。
  1. 第1図(スクリーン電圧90V 積極的打ち消しを行わせない例)
  2. 第2図(スクリーン電圧70V)
  3. 第2図(スクリーン電圧60V)
  4. 第2図(スクリーン電圧50V)
  5. 第2図(スクリーン電圧46V 歪が最も低くなる例)
 なお、各測定時における各部の電圧、負帰還量は第1表の通りである。スクリーン電圧46V時が最も低歪であった。 また、スクリーン電圧の変化で僅かではあるが利得が変化するため、負帰還量も変化している。スクリーン電圧を高くした方が利得は増加傾向である。 

《 測定回路 》





《 測定結果 》

 右図で90Vのグラフは歪打消しを積極的に行わない場合(第1図)で、これを標準回路とする。
 70V〜46Vは歪打ち消しを行った場合の1KHZにおける歪率をあらわしている。
 スクリーン電圧を低下させるにしたがって歪率が低下する傾向が読み取れる。 スクリーン電圧46Vの時が最も低くなり、更に低下させれば悪化に転ずる。
 標準回路で1W時の歪率が0.63%であったものが、スクリーン電圧46Vでは0.1%未満まで低下し、実に1/7である。
 ただし、この効果は球の特性に大きく左右されるため、調整時には歪率計が必須である。現にこのアンプでも、歪最良点におけるスクリーン電圧は左右CHでかなり異なっている。
 なお、プレート供給電圧が低い場合、最大出力電圧は小さくなり、奇数次の歪が増加するので効果が半減すると思われる。 また、3段アンプの場合、この打消しは初段ではなくドライブ段で行わなければならない。
 測定に使用したアンプは3段構成であるが、2段目カソードフォロアーであるから、位相関係は2段アンプと同じである。 また、OPT1次側2.5KΩ、あるいは2KΩとした方が最大出力は増加するが、歪率がかなり悪化するので3.5KΩとした。 A2級アンプのためか3.5KΩとしても最大出力の低下は僅かである。

 以上の結果から、シングルアンプ3極出力管の偶数次歪打ち消しは、前段に5極管を使用した場合でも非常に効果的方法である。





 最終的な改造回路は下図の通りである。詳しくは 直結カソードフォロアードライブ50CA10シングルアンプ を参照されたい。


inserted by FC2 system