雑 音 歪 率 計 平成21年12月15日    



《 はじめに 》
 1973年に自作した真空管式雑音歪率計も35年の時を経てメーター軸受けの磨耗が進み、0点付近の指示が不安定になった。 そこで、200μA電流計を新たに入手し、歪率計を作り変えることにした。 シャーシー、メーター(200μA)以外のバリコン、バーニヤダイヤル等の主要部品は全て流用する。目標は0.01%(最小目盛位置)まで測定可能な歪率計に仕上げることである。

《 回路構成 》
 回路はV1(6267)とV2(12BH7A)の前置増幅器を通過した信号をウィンブリッジ型フィルターで基本波を除去、さらにV3(6267)で増幅した後、V4(12AX7A)のカソードフォロアーからアッテネーターを経て指示計部へ送る方式である。
 NFBはV2からV1へ、V4からV1へと2重に掛かっている。 V2からV1へのNFBは前置増幅部の歪減少の目的であるが、この間で歪が発生していたのでは何を測定しているか判らなくなるので、回路定数を細かく調整して低歪にしなければならない。 また、V4からV1へのNFBはフィルター部の特性に影響するので出来るだけ多くしなければならない。 その時、低域のスタガー比に注意しなければ低域発振を誘発する。V1、V3のスクリーングリッドのパスコンの容量にも注意が必要である。
 V2プレート抵抗とカソード抵抗の比が2:1の時、ブリッジが平衡状態となるので、NFB回路の定数を変更したときは、カソード側の抵抗値も変更しなければならない。
 前面パネルには疎調整用、微調整用それぞれ2個の可変抵抗とバリコン(バーニヤダイヤル付き)を取り付けている。 微調整用バリコンにはFMチューナーから取り外したものから羽数を減じて使用した。疎調整用は昔の5球スーパーラジオから取り外したものである。 可変抵抗は疎調整用に5KΩ、微調整用に50KΩを使用した。それぞれに直列抵抗9.4KΩ、122KΩを挿入して調整範囲を狭めた。
 指示計部に使用した12DW7は双3極管で第1ユニットは12AX7、第2ユニットは12AU7同等となっている。この部分は増幅型交流電圧計そのものである。

《 製作と調整 》
 配線はプリアンプの製作技術があれば困難ではないが、バリコン、周波数切替用の抵抗、ロータリ−SW等は完全にシールドしなければならない。 前面パネルは出来るだけ厚い板を使用し、補強した方が良い。また、バリコンは強固に取り付けなければならない。 それを怠るとバックラッシュが発生し、測定器としては致命的欠陥となる。
 回路定数を細かく調整しなければ残留歪率の低下は望めないが、真空管の選別も大切で、V1とV3は球を変えただけで残留歪率が数倍に増加する場合があるので注意しなければならない。 また、V2には最初12AU7を使用していたが12BH7Aに変えたところ、残留歪が半減した。
 フィルター部の特性は下の第1図の通りまずまずである。第2高調波で10%程度の減衰が見られるが、測定値に大きな影響はなく、特に問題はないであろう。
 V3のグリッドリーク抵抗に10MΩを使用しているが、不用意に1MΩ等を使用するとフィルターの除去特性が悪化する。 内側ループのNFBを増加すれば残留歪は減少するが、終段から初段へのNFBが少なくなり、フィルター特性が甘くなるので注意が必要である。
 V1のカソード抵抗(2.2KΩ)を大きくすればNFB量が増加するが、あまり大きくすると感度低下を招き、0.1W/8Ω時の測定が不可能となる。 そのためには、メーターの直線性を犠牲にして、メーター指示部の感度を上げなければならない。全体の利得はNFBを増加して出来る限り小さくした方が好結果が得られる様である。
 最終的に測定可能最小入力電圧は0.8Vとなったが、0.1W/8Ω時の0.89Vを下回っているので不便はない。 一般に低出力時の歪率測定は残留雑音を測定しているのと同じである。したがって、0.1W未満の歪率測定は不要と考える。


第1図 各周波数におけるフィルター特性

 測定レンジは0.4%、1%、4%、20%、100%の5段階である。この配分であれば目盛りは200μA電流計が丁度良い。100μAでは測定レンジを変更しなければ指示が読み難くなる。
 入力短絡時の残留雑音は0.002%まで低下させることが出来た。ザルツァ型低周波発振器と組み合わせた時の最小歪率は次の通りである。
100HZ0.006%
1KHZ0.007%
10KHZ0.007%

 雑音歪率計は中古でも高価なものであるが、アンプの自作には欠かせない重要な機器である。本機のように最低歪率0.01%程度までの測定であれば少ない費用で自作可能である。 ただし、根気は必要。

 平成23年7月に電源部を新たに製作した。 B電源電流容量はDC30mAもあれば十分であるが、小型トランスではヒーター電源容量が不足するので電源トランスを西崎電機に特注した。





内部配線


背面写真


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