電圧計と電流計の話   平成21年 9月11日    


はじめに

 電圧計、電流計にはいろいろなタイプがあるが、一般的にオーディオ測定の分野で使用されているものは可動コイル型指示計器である。
 主な電気指示計器(電流計)を構造別に分類したものが下表である。

 形式 
用途
 指示値 
特徴
可動コイル型
直流用
平均値
高感度
可動鉄片型
交流用(主に商用電源用)
実効値
安価堅牢、電力用、不平等目盛
電流力型
直流〜1000HZ
実効値
電力用、平等目盛
熱電型
直流〜1MHZ
実効値
2乗目盛
 
 ここでは可動コイル型指示計器に的を絞って、その使用方法を述べることとする。

可動コイル型指示計器とは

 可動コイル型指示計器は読んで字のごとく、磁界中に置かれたコイルに直流電流を流すことによりコイルに取り付けられた指針を回転させる構造である。 コイル両端電圧が規定値でフルスケールとなり、コイル電流が規定値でフルスケールとなる。つまり、可動コイル型指示計器は電圧計でもあり電流計でもある。
 また、計器の基本的性能はコイルの直流抵抗値とフルスケール時のコイル電流値(メーター感度)で表わさる。 たとえば、内部抵抗500Ω、200μAフルスケールなどである。目盛板はその用途により電圧目盛板、電流目盛板などが取り付けられている。 なお、内抵抗値は表示されていない。そのほかに、使用時の向き(垂直、水平)、誤差の許容値(0.5級、1.5級、2.5級)が表示されている。 これはフルスケール値に対する誤差(%)を示しているため、振れが小さいときの誤差は数倍に増加するので注意しなければならない。 一般には2.5級が多く使用されている。

《 直流電流計としての使い方 》

 200μAメーターでは最大200μAまでの電流しか測定できない。 もっと大きな電流を測定する際は全電流のうち200μAがメーターコイルに流れるように分流抵抗をメーターコイル並列に接続すれば良い。
 メーター内部抵抗を rΩ、分流抵抗を RΩ、フルスケール時におけるコイル電流値(電流感度)を IoA、測定電流値を IA としたとき

  Io × r = R ( I − Io )

の関係が成立する。上式から分流抵抗値(R)を計算すれば下式となる。(第1図参照)

  R = Io × r / ( I − Io )

  I >> Io のとき R ≒ Io × r / I 

 内部抵抗500Ω、感度200μAのメーターを500mAフルスケール電流計として使用するときの分流抵抗(R)は 0.20008Ωとすれば良い計算である。 このときメーターには0.2mA(200μA)、分流抵抗には499.8mAが流れ、メータコイルの両端電圧は0.1V(0.0002A×500Ω)となる。
 さらに分流抵抗値を切り替えることにより、200μAのメーターがフルスケール値の異なる電流計に変えることができる。
 しかし、このメーターでさらに大きな電流を測定するためには分流抵抗値をもっと小さくしなければならないため、少し無理である。 そのときはもっと感度の低いメーター(1mAフルスケールなど)を使用、あるいはメーター直列に抵抗を挿入し、メーター内部抵抗を大きくして感度を下げる方法がとられる。
 メーターに直列抵抗R1Ωを挿入した時の分流抵抗(R)は以下の計算で求めることができる。(第2図参照)

 Io ( R1 + r ) = R ( I − Io )

 R = Io ( R1 + r ) / ( I − Io )

 I >> Io のとき R ≒ Io ( R1 + r ) / I 

たとえば、前出の500mA電流計に内部抵抗と同じ値(500Ω)の抵抗を挿入すれば、感度は半分となり、0.20004Ωの分流抵抗で1Aまで測定可能となる。 ただし、計算上での分流抵抗は0.20008Ω、0.20004Ωであるが、どちらも0.2Ωで全く問題ない。

《 直流電圧計としての使い方 》

 前出の内部抵抗500Ω、感度200μAのメーターで電圧を測定するとき、単体では0.1Vまでしか測定できない。 そこで、フルスケール時における電流が200μAになるように分圧(直列)抵抗を挿入することになる。 メーター内部抵抗を rΩ、分圧抵抗を RΩ、フルスケール時におけるコイル電流値を IoA、測定電圧値を EV としたとき

  Io = E / ( R + r )

の関係が成立する。上式から分圧抵抗値を計算すれば下式となる。(第3図参照)

  R = E / Io − r

  R >> r のとき R ≒ E / Io 

 つまり、内部抵抗500Ω、感度200μAのメーターを500Vフルスケール電圧計として使用するためには 2499.5KΩの分圧抵抗を接続すれば良い計算である。 分圧抵抗とメーター直列回路の両端電圧が500Vの時、メーターコイルには0.0002A(200μA)が流れている。
 その時、メータコイルの両端電圧は電流計として使用した場合と同じ0.1V(0.0002A×500Ω)である。
 この方法で内部抵抗2.5MΩ(5KΩ/V)の電圧計が出来上がる。もちろん目盛は200μAを500Vに100μAを250Vに読み替える必要がある。 一般に直流電圧計として販売されているものでは、電圧表示用目盛に交換されている。
 アナログテスターなどにはメーターコイルに分流抵抗を取り付け、感度を故意に下げた使用方法も見られる。
 分流抵抗 R1 Ωを挿入した時の分圧抵抗(R)は以下の計算で求めることが出来る。(第4図参照)

 E = R ( Io + I1 ) + Io × r

 I1 × R1  = Io × r

 上記2式から I1 を消去すれば分圧抵抗(R)は以下の通りである。

 R = R1 ( E − Io × r )/{ Io ( R1 + r ) }

 E >> Io × r のとき R ≒ R1 E /{ Io ( R1 + r ) } 

 前出の500Vフルスケール電圧計(分圧抵抗2499.5KΩ)に500Ωの分流抵抗を取り付ければ1000Vフルスケール電圧計とすることが出来る。 ただし、分圧抵抗の計算値は2499.75KΩであるが、実用上は2500KΩでまったく問題ない。


《 交流電圧計としての使い方 》

 可動コイル型計器を交流電圧計として使用するには、整流回路を挿入すれば良い。 接続方法として、右の第5図の回路などがある。一般には、前置増幅回路を付けて使用されることが多い。 前置増幅を行う場合、増幅回路のNFBを調整して指示値を校正する。 メーター直列に可変抵抗器を挿入、あるいはRを増減するなどしても指示値の調整が出来る。
 また、前置増幅回路にアッテネーターを組み込めば広帯域交流用電圧計とすることが出来る。 
 第5−1図〜第5−3図の回路ではいずれも内部抵抗はおよそR(Ω)である。 第5−1図の方法は第5−2図、第5−3図と比較して、メーター電流が2個のダイオードを通過し、ダイオード順方向電圧降下が2倍となる。 一般的には第5−2図、第5−3図の方式が多いようである。
 整流型交流電圧計は平均値指示型であるので、一般に正弦波の実効値を指示するように校正されている。 そのため、波形率(実効値/平均値、正弦波ではπ/2√2)が異なる波形では誤差を生じるので注意が必要である。
 なお、オーディオ用として使用する場合、整流素子にシリコンダイオードなどは使用不可で高周波用ダイオードを使用しなければならない。 また、ダイオードの低電流時特性の影響を受け、低指示領域ではマイナス誤差を生じるので注意が必要である。
 直線目盛を使用出来るようにするためには定電流駆動方式にすれば改善される。一般には電流負帰還をかけることが行われている。
 なお、この低電流時特性は2乗特性近似である。この特性をうまく利用すれば直線目盛の出力(電力)計が製作できるが、 温度特性が悪いのでサーミスターなどによる温度補償なしでは実用にならない。



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